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植物生長ホルモン「ジベレリンA1」の唯一未解明の生合成酵素遺伝子を発見/理化学研究所

独立行政法人 20130115_01.jpg理化学研究所は、植物生長ホルモンの1つで、多くの植物に普遍的にある「ジベレリンA1(GA1)※1」の生合成に関わる酵素遺伝子の中で、唯一未解明だった「GA 13-酸化酵素遺伝子」をイネから発見しました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)生長制御研究グループの山口信次郎客員主管研究員(現 東北大学大学院生命科学研究科教授)と真籠洋研究員、神谷勇治グループディレクターを中心とした国内共同研究グループ※2による成果です。

植物の生長促進ホルモンであるジベレリン(GA)は総称であり、このうちGA1は、イネを含む種子植物で普遍的に見られる活性型のGAです。しかし、これまでGA1の生合成は完全に解明されていませんでした。なぜなら13位水酸化※3と呼ばれる反応を触媒するGA 13-酸化酵素遺伝子が未解明だったためです。

既知のGAの酵素の構造によく似た機能未知のタンパク質は、GAに関係する新酵素である可能性があります。そこで、共同研究グループは、GAを不活性化させるイネのシトクロムP450酵素※4をコードするEUI(CYP714D1)遺伝子と遺伝子配列が近いCYP714B1とCYP714B2に着目、解析しました。これらがコードする酵素とGAとの関連性を直接検証するため、酵母や昆虫細胞でCYP714B1酵素とCYP714B2酵素を各々発現させ、機能解析を行いました。その結果、両方の酵素がGA中間体であるGA12の13位水酸化を触媒して、GA1の生合成につながることを発見しました。さらに、この2つの遺伝子を欠損させたイネ二重変異体のGA含量を分析したところ、GA1が著しく減少する代わりに、GA1より活性が強いGA4が増加していました。これらの結果から、CYP714B1とCYP714B2はイネの主要なGA 13-酸化酵素と判明し、GA1(弱い活性型)とGA4(強い活性型)の量のバランスを調節していると分かりました。また、この二重変異体は出穂期に最上位の節間が野生型に比べ長くなり、草丈が高くなりました。イネの茎葉ではGA1が多く存在することから、GA 13-酸化酵素は時期と組織に応じてGA1とGA4 の量を調節して生長を最適化していることが分かりました。

将来、この酵素を用いた新しい植物生長の調節技術の開発が可能になると期待できます。

本研究成果は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America(PNAS)』オンライン版に1月14日の週に掲載されます。

◇ポイント◇
ジベレリンA1の生合成に関わるGA 13-酸化酵素遺伝子をイネから発見
GA 13-酸化酵素遺伝子を欠損したイネ変異体は草丈が高くなる
ジベレリンの質の調節による作物生産性向上に期待

■背景
植物ホルモンは、植物自身が合成し、シグナルとして自身の細胞にさまざまな働きかけをする生理活性物質です。一般に植物組織1グラム中の植物ホルモンの含量は、1ナノグラム以下と極微量で、その量は生長や環境に応じて巧妙に調節されています。植物ホルモンの1つであるジベレリン(GA)は、植物の生長を促す作用を持っています。1940~60年代にコムギやイネの収量を飛躍的に高めた「緑の革命」では、草丈がやや低い品種の特性を人為的な交配によって取り入れて、肥料を多く与えても倒れにくい多収品種の開発につながりました。この草丈が低い特性は、GAの生合成遺伝子などの突然変異が原因であることが、後の研究で明らかにされています。

GAは、多段階の酵素反応を経て生合成されます。合成中間体であるGA12以降は、GA 13-酸化酵素による13位水酸化(OH基の導入)への変換の有無により、早期非水酸化経路と早期13位水酸化経路に分かれます。そして、その後も既知の酵素により順次酸化され、最終的に活性の強いGA4(13位非水酸化型)と活性の弱いGA1(13位水酸化型)が合成されます(図1)。

GA1は、イネを含む多くの種子植物で普遍的に見られる活性型のGAです。GA 13-酸化酵素はGA1の生合成に欠かせないカギとなる酵素です。以前からその酵素活性はいくつかの植物で見つかっていましたが、それをコードする遺伝子は長らく不明でした。これまでに、GAの生合成に関わる他の全ての酵素遺伝子は明らかになっていたため、ただ1つ未解明なGA 13-酸化酵素遺伝子はGA生合成のミッシングリンク(発見されていない間隙)といわれていました。

■研究手法と成果
共同研究グループは、2006年に中国グループとの共同研究でイネから発見した、GAを不活性化させるシトクロムP450酵素をコードするEUI(CYP714D1)遺伝子に着目しました。この遺伝子に遺伝子配列が近いイネゲノム上の5つのCYP714ファミリーに着目し、詳しく調べました。これらを、モデル植物であるシロイヌナズナで過剰発現させた結果、CYP714B1とCYP714B2遺伝子の各過剰発現体が野生型に比べて小さくなりました。そして、体内のGA含量を分析した結果、野生型に比べGA1(13位水酸化型)が増えており、13位水酸化が亢進していました。

次に、これらがコードする酵素とGAとの関連性を直接検証するため、酵母や昆虫細胞でCYP714B1酵素とCYP714B2酵素を各々発現させ、機能解析を行いました。その結果、両酵素にGA中間体であるGA12の13位を水酸化しGA53に変換させる活性があることを明らかにしました。この結果は、GA12が(GA1が作られる)早期13位水酸化経路へとつながることを意味します(図1)。さらに、2つの遺伝子を欠損させたイネ二重変異体のGA含量を分析したところ、GA1が著しく減少した代わりにGA4が蓄積していました(図2)。同時に測定した他のGA中間体の測定結果から、このGA1の減少とGA4の蓄積は、13位水酸化が抑制された結果によるものと判明しました(図2)。これらの結果から、CYP714B1とCYP714B2はイネの主要なGA 13-酸化酵素遺伝子と判明しました。 また、この二重変異体は、出穂期に最上位の節間が野生型と比べて長くなり草丈が高くなりました(図3)。これらから、イネは時期と組織に応じてGA4とGA1の量を調節して生長を最適化していることが分かりました。イネの茎葉にはGA1が多く存在する一方、GA4は葯に非常に多く存在することが知られています。また、GA1はGA4に比べ活性が低いですが、前述のEUI(CYP714D1)酵素による不活性化を受けません。これまでGAの活性は、その生合成と不活性化酵素の巧妙なバランスによる量の調節が働いていることが知られていました。今回の研究によりその量の調節に加え、GA 13-酸化酵素の働きによる質の調節、すなわちGA1とGA4の量比の調節も働いてGAの活性が制御されることが示唆されました。

■今後の期待
今回の成果により、GA生合成調節の全体像の詳細な解明が進み、その先の「なぜ植物は複数の活性型GAを使うのか」という大きな疑問の答えが得られるのではないかと期待しています。

また、シロイヌナズナやキュウリなどの茎葉ではGA4が多く存在しています。今回のイネのGA 13-酸化酵素遺伝子を過剰発現させたシロイヌナズナが野生型に比べ小さくなったのは、GA4とGA1の量が逆転したために起きたと考えられます。草丈の適度な抑制は農作物の生産性向上につながる可能性を持っています。このGA 13-酸化酵素を用いたGAの質の調節による、新しい植物生長調節技術の開発が期待できます。

原論文情報
Hiroshi Magome, Takahito Nomura, Atsushi Hanada, Noriko Takeda-Kamiya, Toshiyuki Ohnishi, Yuko Shinma, Takumi Katsumata, Hiroshi Kawaide, Yuji Kamiya, Shinjiro Yamaguchi “CYP714B1 and CYP714B2 encode gibberellin 13-oxidases that reduce gibberellin activity in rice”. Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America, 2013, doi: 10.1073/pnas.1215788110

< 補足説明 >
※1 ジベレリンA1(GA1)
ジベレリン(GA)は植物ホルモンの一種で、生長を促進する作用を持つジテルペン化合物。茎葉の伸長を始めとして、種子発芽、開花、結実にいたるまで、植物の一生を通して重要な生理作用を示す。これまでに130種類以上が見つかっており、それぞれ番号がつけられている。GA1は、イネを含む種子植物で普遍的に見られる主要な活性型である。他の活性型は、GA3、GA4などに限られる。
※2 国内共同研究グループ
理研植物科学研究センター生長制御研究グループ(山口信次郎客員主管研究員、真籠洋研究員ら)、宇都宮大学(野村崇人准教授)、静岡大学(大西利幸特任助教ら)、東京農工大学大学院連合農学研究科(川出洋准教授ら)で構成。
※3 13位水酸化
化学式でGAを表現したときに13位と呼ばれる炭素原子に水酸基(OH基)を導入する酸化反応。
※4 シトクロムP450酵素
微生物から動物、植物まで生物界に広く分布する一群のヘムタンパク質。一酸化炭素と結合して450ナノメートルに特徴的な極大の吸収スペクトルを持つことから、シトクロムP450と呼ばれる。シトクロムP450は少数の例外を除いて、膜結合型タンパク質で一原子酸素添加反応を触媒する。線虫、ショウジョウバエ、ヒトなどと比較して、種子植物は際立って多数のシトクロムP450種を持つ。従って、植物特有の環境応答や発生メカニズムにシトクロムP450遺伝子群は重要な役割を果たしていると考えられている。これまでに、植物ホルモンの代謝に関与するシトクロムP450がいくつか同定されている。

(発表者)
独立行政法人理化学研究所
植物科学研究センター 生長制御研究グループ
研究員 真籠 洋(まごめ ひろし)
(問い合わせ先)
横浜研究推進部 企画課
Tel: 048-503-9117 / Fax: 048-503-9113
(報道担当)
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
(産業利用に関するお問い合わせ)
独立行政法人理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部

※リリースの詳細は関連資料をご参照ください

【関連資料】
◎リリースURL/PDF(独立行政法人 理化学研究所 2013年1月15日発表)
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2013/130115/detail.html

「独立行政法人 理化学研究所  60秒でわかるプレスリリース」
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2013/130115/index.html

◎独立行政法人 理化学研究所
http://www.riken.go.jp/index_j.html

2013年01月15日 11:13

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