
同じ処方、同じ品質でも評価が分かれる場面は、実はとても多くあります。
この差は偶然ではありません。中身やデザインなど商品そのものではなく、その商品がもっている「他にはない価値は何か(=コンセプト)」ということがその商品に対する評価を決めているのです。

評価が伸びないと、多くの企業は成分や処方を疑います。
「しかしヒット商品を分析してみると、大事なことは中身そのものではなく、その商品を手に取る人にとって他にはないどんな価値を理解させることができるのか。」
差別化されたコンセプトの設計が抜け落ちているケースがほとんどです。

「人は成分表を見てその商品に惹き付けられるわけではありません。
使ったら自分はどう変わるのか、生活がどう豊かになるのか。
この未来像が描けた瞬間に、その商品は初めて“選択肢”の一つになり得るのです。」

正しく商品を説明しているのに魅力を感じてもらえない。
その原因の一部は内容に関する主従のバランスと全体のストーリー性にあります。
未来像(ベネフィット)よりも配合成分や処方に重点をおいた説明では、せっかく差別化した商品の価値は届きません。
人は自分へのメリットが理解できることにしか興味を持たないのです。

既存のカテゴリーに入ってしまった瞬間、商品は「成分の数」「価格」「知名度」という軸で比較されてしまいます。
「従属品のカテゴリー」という土俵に立つ限り、評価は横並びになりやすくなります。

商品が新しく見えない原因は機能や成分の不足ではありません。
商品が埋もれてしまうのは戦う場所(ポジショニング)の工夫が足りないのです。
商品のポジショニングを工夫することにより、既存商品に埋没することなく差別化しやすくなります。

ストーリー設計(ナラティブ設計)とはコピーをつくることではありません。
この商品が顧客にとって「何のための存在なのか」を最初に定義すること。
この価値の定義が決まると、比較される相手やジャンルが決まります。
ブランディングは商品説明よりも前にこの設計から始まります。

同じ商品でも、「何のための存在か」という文脈が変わると、価値は別物になります。
体重を落とす道具か、生活を整える習慣か。
中身ではなく、語る位置が商品を変えています。

物語が先にあると、成分は主役ではなくなります。
その代わり、「なぜこの商品なのか」を支える納得の理由になります。
成分が生きるかどうかは、ナラティブ設計にかかっています。

情報量だけをいくら増やしても相手の心に残る商品にはなりません。
物語のない説明はその場で消えてしまいます。
人の記憶に残るのは、情報そのものではなく、自分の価値観と重なり、自分の選択や暮らしにとって意味があると感じさせる体験です。

商品が変わったわけではありません。
変わったのは「使った後の自分」を具体的に想像できたこと。
評価を動かすのは商品そのものではなく、その商品によって手に入る「未来の自分」が見えることです。

差別化とは、成分を増やすことではありません。
「商品がどう違うか」ではなく、「違う存在としてどう見られるか」を設計することです。
既存商品と比較されない立ち位置をつくるとは、スペックでは比べられない存在になること。
そのために必要なのがナラティブ設計です。商品そのものを語るのではなく、それによって得られる未来を先に描いて見せる。
物語の起点を「商品そのもの」から「どんな未来を手に入れられるか」に置き換える。そこからブランドは始まります。
【さいごに】
ここまで読んでいただいて、「今つくっている商品は、もっと評価されてもいいはずだ」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
その違和感の正体は、商品そのものではありません。生活者の頭の中に“使ったあとの物語”が描けているかどうかにあります。
成分や処方、機能など、商品そのものがどれだけ優れていても、それがどんな暮らしにつながり、どんな未来をつくる商品なのかが理解されなければ、価値は十分に理解されません。
本来、商品は「何ができるか」だけで選ばれているわけではありません。「これを使った自分はどんな自分でいられるのか」、その未来が自然に思い浮かんだ時、商品に対する評価は動きます。
「この商品にはどんな物語があるのか」「どう伝えれば、その未来が無理なく想像できるのか」、生活者の視点に立って考えてみてください。
もし商品設計や伝え方で迷うことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
商品そのものが持っている可能性を、正しく、魅力的に届く形に整えるお手伝いができればと思います。
※ご希望のテーマも募集しています。
< 取材協力 >
株式会社ティアレ 代表取締役
冠 典子
プロフィール
資生堂にて約15年間、ブランドマネージャーとして「肌水」「ウォーターinリップ」など数々のヒット商品を企画・育成。
商品開発にとどまらず、ブランドの立ち位置設計、コンセプト開発、売り場・広告・販促までを一貫して担い、“選ばれ続けるブランド”を育ててきた。
重視してきたのは、「良いものを作れば売れる」という理想論ではなく、生活者が売り場でどの条件で、どう商品を手に取るのかという行動としての生活者目線。
新規商品から既存シリーズの立て直しまで、「どう理解され、どう選ばれるか」から逆算した設計を強みとする。



