財団法人日本ヘルスケアニュートリケア研究所(本部/渋谷区恵比寿・理事長/市川純子)は、ヘルスケア、ニュートリケア、メンタルケアに関する研究と試験実施、情報発信をしています。
同財団のアドバイザーである稲毛病院 整形外科・健康支援科部長で昭和大学医学部統合医学科兼任講師の佐藤務先生に、同財団では東北地方太平洋沖地震の被災者の方、および被災地で活躍されているすべての方に向けて、心と体の栄養失調を防ぐための食と補助食品の摂り方などのアドバイスを頂きました。
「今回の震災では、食事および栄養摂取が不安定な状況が長く続くことが予測されます。また、あまりのショックや、衣食住等が満たされない劣悪な環境下にさらされて食事も喉を通らない方、寒さや不安で眠れない方、心身の極度の疲労感で身体を動かせない方、うつ状態で何も考えることができなくなっている方が大勢います。この状態は今後、心身がさらなる危機的状況に陥る前兆状態といえます。その理由には大切な家族や仲間、故郷という心の糧を失ってしまっていること、また、心身のエネルギー代謝の糧である栄養や睡眠、運動が失われていることがあります。上手く補助食品も利用し、さまざまな心と体の栄養失調や栄養の欠乏症、それに伴うさまざまな心身の疾病という2次災害を防ぐことが重要です」と佐藤先生は話しています。
“必須栄養素”の補給、なかでもビタミン・ミネラルが大事
生命および健康維持には、栄養学的にはまず必須栄養素の補給を意識しなければなりません。それが3大栄養素(糖質・たんぱく質・脂質)とビタミン・ミネラルを合わせた5大栄養素です。
「これらの5つの栄養を意識してきちんと補給することで、それらをバランスよく体だけでなく脳にまで回すことが重要です。体と心の栄養は重複している部分が多いのですが、一部相反したり競合する部分もあるため、単に体だけを意識して偏った栄養摂取をすると、心が停滞してウツ傾向を招くことがありえます。特に基本となる食事の食材には、栄養価がまちまちであったり鮮度に問題があったりなど弱点があります。それを補うのが補助食品です。上手く利用すれば少量で確実に必須の栄養素が摂取できます」(佐藤先生)
【初期】(~1週間/食料・飲料欠乏)
カロリー、ビタミン、ミネラル不足、脱水
(成人はこれまでの貯蓄で何とか乗り越えられるが、疾病者や高齢者、乳幼児・小児など許容量の低い方は危険)
【中期】(1週間~/食材偏在)
ビタミン欠乏症の危険、代謝の低下に伴う慢性疲労・ウツなど、心身の停滞、脱水・貧血など循環器系の停滞に伴う
血栓症、免疫力の低下に伴う感染症の出現増加
【長期】(数週間~/食料回復)
長期代謝の停滞に伴う生命代謝の低下、疾病の悪化(高齢者や乳幼児・小児の疾病者に注意)
被災地での食生活で特に不足しがちなのがビタミン、ミネラルです。「ビタミンやミネラルの欠乏はすべての生命代謝に関与し、その停滞の継続は循環器系、免疫系、内分泌系、神経系、脳循環、脳機能など全身のネットワーク系の停滞につながります。それに伴い、ウツ傾向、感染症、血栓症、心臓や腎臓などのさまざまな臓器の機能低下を招く可能性があります。また、ビタミン欠乏症は、初期は潜在的なものですぐには気づかれないことが多いのが特徴で、例えば、B1欠乏症→脚気→心不全→死など生じると命に関わることになりかねません」(佐藤先生)
●佐藤 務先生プロフィール
■“活動後ウツ”にご用心
体を動かすと、軽い活動から重労働までエネルギー代謝の際に必ずビタミンB3が消費されます。B3は水溶性ので代謝排泄までの時間が短いだけでなく、貯蔵ができないため、こまめな摂取が求められます。できれば食事の際に補助食品などで確実に補給してください。不足が慢性化すると、人間はアミノ酸のトリプトファンからB3を合成する能力があるため、トリプトファンが消費欠乏することになります。トリプトファンはBBB(血液脳関門)でBCAA(アミノ酸)と競合するため、BCAAに対し相対的に欠乏すると脳内に入らなくなります。トリプトファンは脳内でセロトニンの材料(前駆体)となり、セロトニンが不足するとウツを招きます。さらに、セロトニンは暗闇でメラトニンに変換されて睡眠の維持に関与するため、不眠にもなりやすくなります。環境的に生命の危機にさらされたり、悲しみの現場に居合わせたりなど、誰もがウツ傾向を招く可能性がある状況です。ウツ傾向を招かないよう、心のビタミンであるビタミンB群をまんべんなく摂取るようにしましょう。
■B1の欠乏症=“脚気”に注意
B1が欠乏すると脚気になるので注意が必要です。特に日本人の場合、心臓の栄養が脂肪でなく糖質という方が欧米人より多くいます。そういう人は、B1の欠乏によって脚気心となり、心不全を起こし命に関わるので注意が必要です。非常食で脂肪の摂取量が低かったり、無理して活動することでB1が大量に消費された状態が慢性化すると非常に危険です。また、心身の疲労感を感じやすい場合も、日常的に生活時のエネルギー代謝で真っ先に消費されるビタミンB1をきちんと摂ることが重要です。
■食事の摂り方
できればご飯と大豆製品(味噌、納豆、豆腐、豆乳など)をセットで最低2食は摂取するのが理想的ですが、被災地ではそれも難しいのが現状です。「基本はご飯、おかゆ、おじや、おにぎり、いなり寿司(酢、醤油、砂糖が入る)など、ご飯食のアレンジが重要です。嚥下が悪い方、熱発していて食事が取れない方、お子さんで食事にムラがあり、極度に食事が摂れていない方は、総合栄養補助食品であるカロリーメイト(液状・固形は状況に応じて)などを一時的に利用した方がいいでしょう。食事では体が温まり、水分も一緒に摂取できるお粥やおじやなどを。また、心の面からいうと、甘いもの、温かいもの、柔らかいものがおすすめです。食物アレルギーのある方に対する配慮や、薬との飲み合わせにも注意しましょう」(佐藤先生)
■補助食品の補給について
食事ではなかなか摂取できない栄養素も、補助食品なら簡易に確実に補給することができます。「総合栄養補助が可能な食品には、医療用にも使われているエンシュアリキッドやテルミール、他に市販されている固形・液状などの栄養補助剤があります。栄養素別の個々の栄養補給には粉末もしくは粒状のサプリメントを利用しましょう。まず補給してほしいのが、マルチビタミンとミネラル。摂取量を守ってまんべんなく補給してください」(佐藤先生)
■水分補給について
被災地では水分を摂るのを控えてしまう方も少なくありません。「トイレを我慢したくないのであれば、スポーツドリンクがおすすめです。スポーツドリンクは基本的に砂糖と塩の混合溶液です。砂糖は水分の体内の吸収を高め、塩分は水分を血管内に留めておくのに役立ち、脱水(生理的脱水の解消)・血栓症の予防の他、水分を体内にキープできるので頻尿も予防できます。簡単な運動を組み合わせると血栓予防にもなります。食事以外の際に500ccを目安に摂取を。また、食後には温かいお茶がおすすめです。緑茶は口内の殺菌になるため、歯磨きができない場合はお茶で口をすすいだり、うがいをすると良いでしょう」(佐藤先生)