株式資生堂は、2015 年度~2020 年度の中長期戦略「VISION 2020」を策定しました。同社は近年、これまで培ってきた研究開発・技術力やグローバルな事業展開力、化粧文化や美の提案力などの強みを十分活かすことができなかった現実を直視し、これから 50 年、100 年続く会社であるために、2020 年をターゲットに定め、それまでに何をすべきか、どのような会社でありたいのか、「お客さま起点」ですべての活動を構築し、企業価値を高めていきます。
1. VISION 2020 のメインテーマ 動け、資生堂。
同社が捉えられている静的なイメージを打破し、2020 年までの 6 年間でお客さまに対してより価値のあるものを提供していくため、これから資生堂がアクティブかつスピーディーな会社に変わっていくこと、何か新しいものを生み出していくという強い思いを、このワードに込めています。今後は社内の士気を高めるワードとして、さまざまな場面で活用していきます。
2. VISION 2020 のめざす姿
(1)アクティブコンシューマーと共に
2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決まり、わが国全体に変化への機運が高まっています。2020 年は、自分が自分らしく生きる多様化した社会になり、消費においてはアクティブコンシューマーが今以上に台頭することが予見されています。VISION 2020 では、わが国の変化を象徴する年である2020 年をターゲットに、同社が生活者目線を徹底し、アクティブコンシューマーを中心とするお客さまの期待に応え続ける会社になることを目指します。
(2)質が高く持続的な収益を実現
2015 年度から 2017 年度の最初の 3 年間を事業基盤の再構築の期間と位置づけ、その後の 2018 年度から 2020 年度の 3 年間では、成長加速の新戦略に取り組みます。最初の 3 年間ではブランド強化、マーケティング・R&D 投資の拡大、組織・人事制度改革、中国・アジア・TR(※1)・EC(※2)の強化、全社構造改革に取り組み、売上高 3~5%の CAGR(※3)を目指します。次の 3 年間では新ブランドの導入、M&A、投資継続・リターンの獲得、グローバル体制の構築、新興国・未開拓エリアの開拓、ビジネスモデルの見直しと刷新に取り組み、5~7%の CAGR を目指します。これらを実行することで、質が高く持続的な収益力を構築し、2020 年度に営業利益 1,000 億円超、ROE12%以上を達成します。なお、売上高については、上記の営業利益を実現するために、1兆円超を目指します。こうした数値目標の達成とともに、「成長エネルギーが充満した会社」「世界中で話題になる会社」「若者があこがれてやまない会社」「若々しさがみなぎる会社」であると、お客さまや社会に評価される会社になることを目指します。
※1 TR:トラベルリテール。空港などの免税店において海外旅行者向けに商品を販売する事業。
※2 EC:E コマース
※3 CAGR:年複利成長率
VISION 2020 の推進にあたっては、トップライン成長とコスト最適化を同時に追求します。同社の強みを活かせなかった大きな要因の一つに近年の投資の減少があるという認識に立ち、マーケティング、R&D、人材、新規事業を中心に投資を強化します。そのための原資を捻出するとともに仕事のプロセスを変えるため、これまで以上に踏み込んだ構造改革に取り組みます。また、お客さま起点のマーケティング、R&D を徹底することを目的に、組織改革や人事制度改革を実行します。
3. VISION 2020 における具体的な取り組み
(1)最適なブランドポートフォリオの構築
強いブランドを多く育成し、各エリアに適したマーケティングを実行するため、お客さまの購買接点タイプ別にプレステージ、コスメティックス、パーソナルケア、プロフェッショナルの 4 つのブランド事業に区分し、個別のブランドのリポジショニングを行います。
【1】 プレステージ事業
グループの中核事業であり、グローバル全体での成長を目指します。グローバルブランド「SHISEIDO」や「ベアミネラル」「クレ・ド・ポー ボーテ」「NARS」を集中育成します。日本、米州、欧州での安定成長によるシェア拡大と高成長市場の TR、中国、アジアでの成長を牽引します。
【2】 コスメティックス事業
中国、アジアを中心とする市場の成長により、売上規模の拡大が加速することを見込み、中高価格・高付加価値領域では「エリクシール」の中国アジア対応ラインの投入、低価格・若年層向けにはアジア新興国を中心に「Za」の育成を図ります。また、日本、中国においては拡大する EC に積極的に取り組んでいきます。
【3】 パーソナルケア事業
国内におけるヘア、バス、ボディー、メンズなどカテゴリー毎のブランド配置を見直し、事業構造を再構築します。あわせて端的で明確なベネフィットの追求や店頭メンテナンスを強化することで、競争力を高めます。
【4】 プロフェッショナル事業
コアブランドである「資生堂プロフェッショナル」「JOICO」を集中して育成します。日本、米州に次いで、アジア市場での高成長を目指します。施術者のニーズに応える価値づくりやサロン経営への貢献にも積極的に取り組みます。
(2)組織改革
生産・研究からお客さままで一気通貫のマーケティングを実行するとともに、イノベーティブな基盤技術を基にした製品開発を行うため、現地・現場主義、フラット、スピード、アカウンタビリティの 4 つの要素を重視した高い実行力を有する組織を構築します。
【1】 「ブランド軸」と「地域軸」の新組織体制
上記の 4 つのブランド事業からなるブランド軸と 6 つのリージョンからなる地域軸で構成するマトリクスオペレーションを機能させます。これにより、エリア毎に強いブランドを育成します。
【2】 リージョナルヘッドクォーター制の導入
6 つのリージョンにはリージョナルヘッドクォーター制を導入します。これにより、地域に根ざしたブランド育成を進めるとともに、地域でのスピーディーな意思決定、商品開発サイクルの短期化を実現し、お客さまニーズに迅速・的確に対応することで、Think Global, Act Local の考え方を実践します。
【3】 本社と国内販売会社の一体化
本社と国内販売会社の壁を取り払い、一丸となってお客さまへの価値伝達力を高めるため、お客さまの買い方に応じたプレステージ、コスメティックス、パーソナルケア、デジタルの4つに再編します。あわせて、本社、販売会社に分散・重複する企画や営業機能などを統合・集約し、組織・プロセスを簡素化するとともに、人員を営業力強化のために配置します。
(3)投資の強化
同社の強みを活かし、持続的な売上成長、利益拡大を目指すため、投資の強化を行います。
【1】 マーケティング投資
投資ブランドの選択と集中を進め、お客さま向けの投資を強化します。2015年度からの3年間は、構造改革で捻出した原資すべてを成長投資に充てることとし、2015 年度から累計で 1000 億円超の規模でマーケティング投資を増加させます。これにより、最適なブランドポートフォリオを構築し、ブランド価値、ロイヤリティを高めます。
【2】 R&D 投資と研究員数の拡大
イノベーションを通じ成長機会を創出することを目的に、R&D への投資(売上高研究開発比率 1.8%から 2.5%へ)、人員(グローバルでの研究員数を約 1,000 名から約 1,500 名へ)を強化します。・グローバルイノベーションセンター(日本)の設立同センターの設立により、将来の成長を支える基礎基盤研究を強化するとともに、センター内に「都市型オープンラボ」を開設します。ダイレクトなコミュニケーションを通じて、お客さまやお取引先と共に価値づくりを推進します。・世界各地での商品開発を強化現地ニーズに根ざした商品開発を行うため、米国、欧州、東南アジア、中国の各リサーチセンターの規模をそれぞれ拡大します。
【3】 成長実現に必要不可欠な領域への投資
お客さまとの接点拡大やお客さまの購買行動の変化に迅速に対応するため、TR、EC・デジタル領域を強化します。・成長余地が大きく収益性の高い TR 領域の拡大独立組織化、専用商品の導入、店舗カウンターへの投資により、特に成長が見込まれるアジア市場の拡大に取り組みます。・若い世代にリーチするための EC・デジタル領域の強化日本、中国で独立部門を設置し、戦略立案の機能を有するヘッドクォーターを設置し、IT・マーケティング投資の強化を進めます。
(4)全社的構造改革
お客さま向け投資の拡大、PULL 型マーケティングの実現のため、原資を捻出するとともにコスト最適化を進めます。
【1】 コスト最適化
原価、マーケティングコスト、在庫/SCM、バックオフィスコスト、人件費/生産性においてコスト最適化
を推進します。
【2】 核心に踏み込んだ構造改革
これまで本社主導で日本中心に行ってきた構造改革を、中国のビジネス構造再構築を含め全世界・全領域で拡大展開します。これまでの削減・スリム化といったコスト中心の考え方から、仕事の進め方そのものを変える組織やプロセスの領域まで踏み込んだ構造改革を実行します。
【3】 投資原資の捻出
2017 年度までに全世界で 300~400 億円を捻出し、お客さま向けのマーケティングや研究開発に関する投資を拡大します。
(5)人事制度改革
組織の活性化と若返りを推進するため、人事制度を見直します。
【1】 外部人材登用、日本偏重のポスト配置の見直し、女性の活躍等を一層促進し多様性を強化
【2】 能力ある若手の登用、選抜型教育の実施、賃金の業績連動を高めること等、競争原理を導入
【3】 職務規程設計の見直しやコミットメントに対して責任を果たす風土の醸成により役割と責任を明確化
【4】 ビューティーコンサルタント(国内)の活性化
・優秀な人材を確保するため、正社員採用や契約社員から正社員への登用を促進
・成果を出した若い社員に報いるため、店頭売上に連動した評価・処遇制度への改訂
・ライフスタイルに合わせた働き方を可能とするため魅力あるセカンドキャリアを創出
(6)中国事業の再構築
複雑な組織・プロセス、市場の変化への対応の遅れ等の課題を解決するため、以下の重点実施事項を推進し、事業の立て直しを進め、将来の利益成長をより確実にしていきます。
【1】 ブランドポートフォリオの再構築とブランドへの投資拡大
【2】 活動目標を店頭売上に一本化
【3】 デジタル№1 カンパニーに向け EC 事業を独立化
【4】 権限の現地化とローカル人材の登用による組織力強化
【5】 ビューティーコンサルタント体制の再構築と活性化
【6】 高コスト体質からの脱却
【各地域における戦略の方向性】
日 本:シェア回復:お客さま投資拡大/プレステージ/コスメティックス優先強化/パーソナルケア領域の集中強化
中 国:事業再構築:お客さま投資拡大/機能・権限の現地化/EC事業独立化
アジア:成長性拡大:プレステージでのシェア拡大/コスメティックスの基盤確立/TR、新興国での展開強化
米 州:収益性向上:メーキャップブランドの成長加速/バックオフィス統合/ADC(※)の正常化
欧 州:収益性向上:欧州統一マーケティング/バックオフィス統合/低収益国での事業改革 ※ADC:アメリカ物流センター
4. 財務戦略
(1)投資、株主還元
構造改革で捻出した利益は、成長投資に振り分けていきます。株主への利益還元については、当面は成長投資先行となるため、配当性向は中期的に 40%を目安とし、安定的かつ継続的な配当を維持します。また、資本効率向上も重視し、自己株式取得についてもフリーキャッシュフローレベルや市場状況を勘案しつつ、適宜実施します。
(2)財務 KPI
持続的成長に向けて、ブランドへの投資を行い、ブランド価値向上とトップラインの成長を実現し、営業
利益の拡大と企業価値の向上を目指します。その上で、フリーキャッシュフローやキャッシュコンバージョンサイクルに重点を置き、これまで以上にキャッシュフローとバランスシートのマネジメントを強化し、経営効率の向上を推進します。これにより、2017年度にはROE9~10%、2020年度にはROE12%を目指します。VISION 2020 の実現のため、経営陣の刷新や体制強化、全役員による構造改革へのコミットメント、現場を重視するリーダーシップの発揮、アカウンタビリティの明確化など、経営陣が先頭に立ち、全社一丸となって取り組みを進めます。また、「美しい生活文化の創造」という同社の企業理念の実現を目指し、環境や社会との共生という社会的価値の向上にも取り組みます。
※詳細は下記URLをご参照ください。
◎株式会社資生堂 2014年12月15日発表
http://www.shiseidogroup.jp/releimg/2371-j.pdf
◎株式会社資生堂 公式サイト
http://www.shiseidogroup.jp/