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資生堂、皮膚の炎症増悪タンパク質を発見し慢性的な炎症メカニズムを解明

資生堂は、岡山大学医学部(許 南浩 教授)との共同で、これまで生体における炎症の単なる指標物質として知られていたカルシウム結合タンパク質の一種であるS100A8/A9タンパク質※(以下「炎症増悪タンパク質」という)が、(1)炎症を引き起こす原因物質であること、(2)炎症増悪タンパク質によって増加する炎症誘引物質(炎症性サイトカイン)がさらに炎症増悪タンパク質の発現を促し負のスパイラルを形成しているということを見出し、「皮膚の慢性的な炎症メカニズム」を世界で初めて解明しました。

この炎症を鎮めるためには医薬品からのアプローチが必要であり、資生堂は慢性的な炎症による肌悩みを抱える女性に向けた医薬品の研究開発を進めていきます。

※ 近年、がんの転移に関わる重要な因子であることが解明され、生体にとって重要な因子として注目されている。これまで、健常な皮膚にはほとんど存在していないことが知られている。一方、炎症状態になっている生体(ヒト)組織ではS100A8/A9タンパク質が増加することから、炎症の指標物質(マーカー)となっている。

■研究の背景

資生堂は、「美しく健やかな肌」のために長年にわたって皮膚科学研究に取り組み、商品などの研究開発を進めてきています。

美しく健やかな肌を損なう炎症については、肌表面に現象が表れるものから細胞レベルまでさまざまな研究を行ってきています。

皮膚炎症には、詳細なメカニズムが解明されていない乾癬(かんせん)など代表される繰り返し起こる疾患レベルのものもあり、医学部の先生方と連携した研究を2004年頃より始めました。

この研究を進めるにあたって着目したのが、生体内(ヒト)における炎症の指標物質として知られていたものの、皮膚炎症メカニズムとの関係は全く研究されていなかった炎症増悪タンパク質です。

資生堂は、この炎症増悪タンパク質が皮膚の表皮細胞でも産生されているという独自の知見もあわせて、皮膚炎症とそのメカニズムとの関係について研究を進めました。

■皮膚慢性炎症の原因物質であった炎症増悪タンパク質

皮膚には外部からの異物の侵入を防ぐバリア機能が備わっていますが、炎症を起こした部位ではバリア機能が低下し、角層水分蒸散量(TEWL)が増加することが知られています。

今回着目した炎症増悪タンパク質は、TEWLの増加(バリア機能の低下)にあわせて増える相関関係があることを見出しました。

また、アトピー、乾癬(かんせん)などの疾患で表皮細胞が異常増殖し、慢性的な炎症状態となっている表皮では、炎症増悪タンパク質の量が極めて多くなっていることを見出しました。

こうした結果より、「炎症増悪タンパク質は、皮膚の慢性的な炎症反応の主要な因子のひとつで、表皮細胞の異常増殖を引き起こしている」といえます。

これまで皮膚の炎症研究では、異物に対する免疫反応とそれに伴う細胞の異常増殖が肌の異常を引き起こす炎症疾患の大きな原因であることが定説となっていました。

これに対して、今回見出した炎症増悪タンパク質は、さまざまな皮膚炎症の引き金となる原因物質であるという、全く新しい事実を発見しました。

■炎症を慢性的に増悪させるメカニズム

さらに岡山大学と共同研究を進めた結果、皮膚の表皮を構成する細胞(表皮細胞)に、炎症増悪タンパク質を人為的に作用させると、炎症によって増加することが知られているさまざまな炎症誘引物質(炎症性サイトカイン)が、同じ表皮細胞内で増加しました。

また、増加した炎症性サイトカインは、さらに炎症増悪タンパク質を増加させる働きがあることを見出しました。

すなわち、 「炎症増悪タンパク質と炎症性サイトカインが相互に負のスパイラルを形成する因子となり、炎症を増悪させる」、というメカニズムを世界で初めて明らかにしました。

この研究成果の一部については、2007年の日本研究皮膚科学会、2008年の国際研究皮膚科学会で発表し、2008年には著名な国際学術誌※2に掲載されました。

※2 “S100A8/A9, a key mediator for positive feedback growth stimulation of normal human keratinocytes.” Nukui T, Ehama R, Sakaguchi M, Sonegawa H, Katagiri C, Hibino T, Huh NH. J Cell Biochem. 2008 May 15;104(2):453-64.

2011年02月07日 20:05

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