株式会社明治、桜美林大学および地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターの共同研究グループは、特定の地域に在住する高齢者を対象とした疫学研究により、チーズの摂取が認知機能の高さと関連することを明らかにしました。当研究成果は、2023年7月18日に、栄養学分野で評価の高い国際学術誌Nutrientsに掲載されました。(Kim et al. Nutrients,2023,15(14):3181.doi:10.3390/nu15143181.)
研究成果
- 特定の地域在住の日本人高齢者において、日常的なチーズの摂取が認知機能の高さと関連性があることがわかりました。
- 年齢を重ねていないこと、通常歩行速度が速いこと、ふくらはぎの周囲径が大きいことも認知機能の高さと関連する重要な因子であることがわかりました。
研究成果の活用
超高齢社会となった日本において、チーズ摂取による認知機能の維持の可能性を研究することで、健康寿命の延伸に寄与していきたいと考えています。
研究の目的
乳製品と認知機能の関連性を示す論文は国内外で数多く報告されていますが、その対象者、地域、測定方法には違いがあり一貫した結果は得られていませんでした。本研究では特定の地域に在住する日本人高齢者を対象に調査を行うことで、チーズ摂取と認知機能の関わりを明らかにすることを目的としています。
研究概要
東京都板橋区在住の65歳以上の日本人高齢者男女を対象に、対面でのアンケートや機能的能力測定を行い、食品摂取や日頃の生活習慣、身体状態と認知機能の関係を評価する横断研究を実施しました。
論文内容
タイトル
横断研究に基づいた日本人地域在住高齢者におけるチーズ摂取と認知機能の低さの逆相関について
(Inverse association between cheese consumption and lower cognitive function in Japanese community-dwelling older adults based on a cross-sectional study.)
方法
- 東京都板橋区在住の65歳以上の日本人高齢者男女を対象に、対面でのアンケートや機能的能力測定を通じて食品摂取や日頃の生活習慣、身体状態と認知機能の関係を評価する横断研究を実施しました。
- チーズ摂取と認知機能に関して欠損のないデータが取得できた1,504名について、MMSE(Mini-Mental State Examination)※1スコアが23点以下を認知機能低下(LCF)として分類し、解析を進めました。
- ロジスティック回帰分析※2の手法を用いて、LCFと関連する因子を分析しました。分析にあたり、チーズの摂取状況、年齢、身体機能、体格要因、既往歴、血圧、歯の残存本数、血液変数、尿失禁の頻度、牛乳の摂取頻度、食事多様性スコアの影響を統計的に調整しました。
結果
- チーズ摂取者(週に一回以上チーズを摂取する人)はチーズ非摂取者と比較して通常歩行速度が速く、歯の残存本数が多く、血中の善玉コレステロール(HDLコレステロール)が高い値を示しました。
- チーズ摂取者はチーズ非摂取者より牛乳を摂取している人の割合が高く、尿失禁の頻度は低く、さらに認知機能を評価する指標であるMMSEのスコアが高い値を示しました。
- チーズ摂取と認知機能に関して欠損のないデータが取得できた1,504名についてMMSEスコアが23点以下を認知機能低下(LCF)として分類したとき、LCFに該当する方は調査対象者全体の4.6%程度(69名)を占め、この集団はMMSEスコアが23点よりも高い高齢者の集団と比較してふくらはぎの周囲径が小さく、通常の歩行速度が遅く、貧血の頻度が高いことがわかりました。
- ロジスティック回帰分析の結果、LCFと関連する因子として、チーズの摂取状況、年齢、通常歩行速度、ふくらはぎの周囲径が重要であることが示されました(図)。
本研究の結果から、特定の地域在住の日本人高齢者において、チーズの摂取は認知機能の低さと逆相関を示すことが明らかになりました。
※1認知機能障害を簡易にスクリーニングするための検査。国際的に最も使用頻度が高く、MMSEスコアが23点以下では認知機能低下または認知症が疑われる。
※2いくつかの要因をもとに、ある事象が起こる確率を説明・予測する解析。また、ある事象に対する要因の影響度を測定することもできる。今回の場合、一例としてはチーズを摂取しているか否かが認知機能の高さにどう影響するかを解析している。