理化学研究所と慶應義塾大学先端生命科学研究所は、ヒトの生体内で24時間周期を刻む体内時計(※1)が示す「体内時刻」を、採取した血液から簡単に測定する方法を開発しました。
これは、理研発生・再生科学総合研究センターシステムバイオロジー研究プロジェクトの上田泰己プロジェクトリーダー、機能ゲノミクスユニットの粕川雄也専門職研究員と、慶應義塾大学の曽我朋義教授、杉本昌弘特任講師、国立精神・神経医療研究センターの三島和夫部長、北海道大学大学院医学研究科の本間研一教授らの共同研究グループによる成果です。
私たちの体の中には、24時間周期を刻む体内時計が存在します。その体内時計が指す時刻(体内時刻)は、健康な人でも約5~6時間の幅で、交代制勤務者(シフトワーカー)では約10~12時間の幅でばらつきがあり、個人差があることが知られています。しかし、ヒトの体内時計が今何時なのかを診断するには、長期間の拘束や連続した組織採取が必要であるなど、容易ではありませんでした。そこで、研究グループは、植物学者カール・フォン・リンネが考案した「リンネの花時計(※2)」にならい、血中の物質量からヒトの体内時刻を簡単に測定する方法の開発に挑みました。
まず、2時間おきに採取した健康な3人の被験者の血液から、24時間周期で量が変化する代謝産物を液体クロマトグラフィー・質量分析計(LC/MS)(※3)を用いたメタボローム解析法(※4)で同定し、「分子時刻表」を作成しました。次に、強制的に体内時刻をずらした6人の被験者の血液を採取して代謝産物量を測定し、この時刻表に照らし合わせて体内時刻を推定したところ、従来法で調べた体内時刻とほぼ同じ時刻を推定できることが確認できました。
この方法を利用すれば、ヒトの体内時計を簡単に診断することができ、例えば時差ぼけや一部の睡眠障害のような体内時計の異常(リズム障害)の簡単な診断だけでなく、リズム障害に関わる治療薬の開発(評価)につながることが期待できます。また、適切な時間に服薬することで最大の治療効果を得るという「時間治療」でも、体内時刻の個人差を調べる診断方法としての利用が期待できます。
本研究成果は、米国の科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences』オンライン版に8月27日の週に掲載されます。
< 補足説明 >
※1 体内時計
体内に備わっている約24時間(概日)周期でリズムを発振する機構。「概日時計」ともいう。
※2 リンネの花時計
色々な花が固有の時間に咲いたり閉じたりすることを利用した時計で、ある瞬間に花壇を見て、どの花が咲いていてどの花が閉じているのかを観察することで、その時の時刻が分かる。
※3 液体クロマトグラフィー・質量分析計(LC/MS)
質量分析計の前に、物質の電荷、溶解度、疎水性などの性質の違いを利用して分離・精製する分離装置がつい
た機器の1つで、分離装置に液体クロマトグラフィーを利用したもの。これにより一度に多数の物質を定量的に測定できる。
※4 メタボローム解析
メタボロームとは代謝産物の総体を意味する。メタボローム解析とは、(測定可能な)代謝産物を包括的に測定器で測定すること。
※リリースの詳細は、関連資料をご参照ください
【関連資料】
◎リリースURL/PDF
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2012/120828/index.html
◎(独)理化学研究所 :公式サイト
http://www.riken.go.jp/index_j.html
◎慶應義塾大学 :公式サイト
http://www.keio.ac.jp/