ドラッグストア業界は今、 “変革”のときを迎えている。 ドラッグストアという業態が広く認知されるようになって20年弱。 この間、 業界は店舗数、 売上規模ともに拡大の一途を辿ってきた。 しかし改正薬事法の施行で医薬品の販売方法が変わり、 不況下で化粧品販売も伸び悩む。 少子高齢化時代における医療制度のあり方なども含め、 業界は 「新時代」 の様相を呈している。
総売上高は4%成長化粧品は成長率が鈍化
日本チェーンドラッグストア協会 (通称∥JACDS、 会長∥寺西忠幸キリン堂会長兼社長) が09年度 (09年10月~10年1月) に実施した調査によると、 ドラッグストアの総売上高は5兆4430億円にのぼり、 08年度の前回調査から4%増と成長を遂げた。 06年度の調査以降、 5%前後の成長を維持しており、 堅調な推移を見せている。
このうち、 化粧品の売上高は1兆3194億円 (商品別売上構成比∥24・2%) となり、 前回調査比1・2%増と僅かながらプラス基調を維持した。 ただ、 医薬品や日用雑貨のほか、 食品などの他のカテゴリーと比較すると成長率は低く、 06年度以降続いた4~7%ほどの増加率と比べても、 成長カーブが鈍化していることがわかる。
かつて 「不況に強い」 といわれた化粧品市場も、 この間の不況による消費マインドの低下が影響し、 百貨店を中心に販売実績が伸び悩んでいる。
ここで問題となるのが、 低価格志向による百貨店の販売不振が、 必ずしもドラッグストアに顧客を誘導する要因とはなっていない点である。
その一方で、 新チャネルとして存在感を増している 「通販」 市場は、 依然として成長に衰えを感じさせない状況にある。
富士経済が発表した調査データ 「化粧品チャネル・トレンドデータ2009」 によると、 08年に2385億円 (前年比3・3%増) だった市場規模は09年に2535億円に拡大し、 6・3%の成長を遂げる見込みであるなど 「通販」 という新興勢力に成長を飲み込まれている状況もうかがえる。
それでも、 矢野経済研究所が発表したドラッグストア各社へのアンケート調査によると、 化粧品を 「重点分野」 と位置づけるドラッグストアが多いことが明らかになった。
また、 昨年6月に医薬品販売の規制緩和を盛り込んだ改正薬事法が施行されたことで、 医薬品の価格競争が予想される中、 化粧品販売を差別化策に掲げて新たな業態や売場展開を試みる店舗も増えている。
今回取材を実施した各社・各店舗に限ってみても、 ゲンキー (福井) とココカラファインHD (東京) はプライベートブランド (PB) 化粧品を開発・販売するほか、 ミネ医薬品 (東京) のミネドラッグはエステサロンを導入した店舗をオープンするなど、 独自の取り組みが目白押しだ。
ドラッグストア業界では、 今後も化粧品販売に特化した新業態店舗の登場が相次ぐものと思われる。
10兆円産業化に向け「7つの課題」業務提携・統合の動き今後も
業界の総売上規模こそ拡大傾向にあるものの、 大目標である 「10兆円産業化」 に向けては足踏み状態が続いている。 当初掲げた達成時期は2012年であったが、 現在の市場規模からみても、 その達成は現実的とはいえない。
ただ、 JACDSは10兆円産業化に向けて取り組むべき7つの具体的な課題を設定し、 そのために必要な商品分野別の予想マーケット規模も数値化して公表。 目指すべき方向性が、 おぼろげながら見え始めている。
7つの課題は、 「面分業の推進」 「セルフメディケーションの推進」 「人材の育成」 「事業の効率化を図るインフラ整備」 「需要創造およびマーケット拡大の研究と実践」 「店舗の効果・効率向上の研究と実践」 「狭小商圏型新フォーマット開発の研究と実践」 というもので、 先月開催された10回目の 「JAPANドラッグストアショー」 でも、 これらの課題を大きく展示するコーナーを設け、 業界に広く情報発信している。
改正薬事法が業界に与えた影響は、 医薬品販売の浮沈にとどまらず、 異業種を巻き込んだ企業間の提携や再編の動きも加速させている。
昨年以降の目立った動きだけを取り上げてみても、 最大手マツモトキヨシHD (千葉) がコンビニエンスストア大手のローソンと、 グローウェルHD (東京) がコンビニのミニストップと業務提携したほか、 先頃はココカラファインHDとアライドハーツHD (神戸市) というドラッグストアチェーン同士の経営統合が発表された。 統合が実現すれば、 業界実質4位の企業が誕生することとなり、 業界の地図がまた一つ塗り変えられる。
改正薬事法が業界に与えた影響はまだ予測不能な面があり、 それに対する各社の対応策も明確に描き切れていない。 松本南海雄マツモトキヨシHD会長兼CEOが 「異業種との関係性はこれからだろう」 との認識を示しているように、 今後も業界再編のニュースが飛び込んでくる可能性は極めて高いと言える。