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「適度な肉類摂取は高齢者の骨折を予防する」東北大学が発表

高齢者は転ぶと骨折しやすく、それはしばしば寝たきりへと繋がります。これまでの欧米の研究では、果物や野菜が高齢者の骨密度を維持するという報告が多くされてきました。しかし、東北大学病院卒後研修センター門馬靖武助教、東北大学大学院医学系研究科運動学分野牛凱軍准教授、先進漢方治療医学講座岩崎鋼准教授らが日本の高齢者を対象として食事パターンと転倒骨折の頻度を検討したところ、意外にも適度な肉類摂取が骨折リスクを減らし、逆に極端に野菜中心の食習慣は骨折リスクを高めていることが分かりました。

この結果は元々日本人高齢者の肉類摂取が欧米よりはるかに少ない(四分の一)ことを背景にしていると考えられます。今回の結果が漢方の食養生に関するもっとも有名な事典「本草綱目(1590 年、李時珍著)の記載とよく一致していたことは、大変興味深いことです。本研究は、オンラインジャーナルBMC Geriatricsに発表されます。

【研究内容】

<方法>
本研究は、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野、同研究科運動学分野、加齢医学研究所老年医学分野などが、仙台市鶴ヶ谷地区で長年実施してきた生活調査(鶴が谷スタディ)の一環として、同地区に住む70 歳以上の高齢者1,178 名を対象とし、2002 年に食事を含む生活状況に関する対面調査を行った。ついで2002 年から2006 年までの医療保険(社会保険診療行為請求)記録を元に、転倒骨折の発生を確認した。
高齢者の食事内容を主成分分析という統計学の手法で解析し、各自の食習慣を推定し、食品毎、食習慣毎に転倒骨折の発生リスクを比較した。

<結果>
今回検討した高齢者には、野菜食パターン、肉食パターン、日本食パターンの3 種の食習慣が抽出された。対象者をそれぞれの食習慣について「よくあてはまる」、「ややあてはまる」、「あてはまらない」にわけ、それぞれの転倒骨折リスクを比較したところ、野菜食パターンによくあてはまる者は、あてはまらない者に対し、骨折リスク(ハザード比)が2.7 倍高かった。一方、肉食パターンにあてはまらない者の骨折リスクはその他に比べて2.8 倍高かった。しかし個々の食品で見ると、野菜でも「淡黄色野菜」は若干骨折リスクを減らすのに対し、海草や根菜類は若干増加させる、菓子類の食べ過ぎは骨折リスクを高めるなどの結果も得られた。

<結論>
わが国における高齢者の現状の食習慣においては、適度な肉類摂取をし、過度な野菜の摂取に偏らないことが、転倒骨折の予防として有用であることが示唆された。欧米の同様の研究では野菜食パターンは骨密度を高め、肉食パターンはむしろ骨密度を下げる(骨折そのものについて調査した研究はない)とするものが多い。本研究におけるこれら結果は欧米の先行研究の一部とは一致しない一方、アジア伝統医学のもっとも有名な食養書「本草綱目」(中国明代、李時珍(1518-1593)著)の記載と合致している。また淡黄色野菜についても本草綱目に「筋骨を強める」との記述がある。食事と健康の関係についてはその土地の食文化をよく考慮して論ずるべきことが示唆された。

<資金>
この研究の元データの収集は文部科学省科研費並びに厚生労働省科研費を用いて行われた。

【用語説明】
本草綱目:中国明代の李時珍(1518-1593)が1590 年に著した。多種の天然物の種類、産地、特徴、薬効などが記された「本草書」(西洋の博物学事典に相当)の最高峰とされる。

【論文題目】
Yasutake Monma et al. Dietary patterns associated with fall-related fracture in elderly Japanese:
a population based prospective study.
「日本人高齢者に於いて食習慣が転倒骨折に与える影響」
BMC Geriatrics 2010, 10:31

(お問い合わせ先)
東北大学大学院医学系研究科先進漢方治療医学寄付講座
准教授 岩崎鋼 (いわさき こう)
電話番号:022-717-7185

2010年06月08日 21:20

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