リンパ管の機能低下と「たるみ」の関係を解明/資生堂

株式会社資生堂は、大阪大学微生物病研究所高倉伸幸教授との共同研究により、皮膚のリンパ管の機能が低下すると皮下脂肪が蓄積し、ひいては「たるみ」の原因となることを初めて明らかにしました。また、このリンパ管を強化、正常化する効果が、ヨーロッパからアジアにかけて分布するセイヨウアカマツ（学名:Pinus Sylvestris ）の球果（まつぼっくり）から採取した「マツエキス」にあることも、世界で初めて発見しました。本研究成果については、今後のスキンケア化粧品に応用すべく開発を進めています。

■資生堂のリンパ管・毛細血管研究の取り組み
資生堂は、栄養や酸素を供給する毛細血管と、水分や老廃物を回収するのに欠かせないリンパ管が、健やかな肌を維持するうえで重要な役割を担っていることから、毛細血管とリンパ管の研究に注力してきています。これまでに、紫外線の影響や加齢によって、毛細血管・リンパ管の構造がもろくなり栄養が肌の隅々までいきわたらなくなることや、リンパ液の回収機能が低下してしわの原因となる炎症が長引くことなど、血管やリンパ管の機能低下が皮膚老化の根本的な原因のひとつであることを見出してきました。一方、これまで皮膚老化のひとつである「たるみ」については、コラーゲン線維の減少・弾力低下、皮下脂肪の蓄積や脂肪細胞の肥大化などが原因であると言われてきました。高倉教授と共同研究を進めるにあたって、リンパ管の状態と「たるみ」が関係しているかもしれないという着想のもと、研究を開始しました。

■リンパ管の機能低下により“むくみ”が“たるみ”へ
リンパ管の機能が低下すると、「むくみ」を代表とする肌トラブルを引き起こします。高倉教授は、リンパ管の機能を高める生体内因子として新たに“アペリン※1″を見出し、さらに皮下脂肪の蓄積を抑えることを発見しました。この研究成果を踏まえ、リンパの機能と皮下脂肪が蓄積する関係を詳細に調べることとしました。その結果、1）リンパ液中に豊富に存在する脂肪酸がリンパ管の不安定化を引き起こし、リンパ管の外へ漏れ出ること、2）漏れ出た脂肪酸が脂肪細胞の分化を直接促進することを明らかにしました。さらに、アペリンにはリンパ管から脂肪酸が漏れ出ることを抑制する機能があることがわかりました（図1）。
たるみの部位では、皮下脂肪が蓄積していることを、同社の研究で明らかにしています。今回の結果は、リンパ管の機能低下によって生じる“むくみ”は、皮下脂肪の増大・蓄積に関与して“たるみ”を引き起こしているというメカニズムの発見を意味しています。※1 アペリンは既知の生体内成分で、13 個あるいは 36 個のアミノ酸で構成されるペプチド。これまでに、血管構造を安定化することは知られていた。

■生体内因子アペリンと同じ機能を持つ「マツエキス」の発見
資生堂は、大阪大学と共同で、リンパ管の機能を高め皮下脂肪の増大・蓄積を抑制するアペリンと同じ機能を持つ生薬成分のスクリーニングに着手しました。アペリンは、リンパ管内皮細胞の細胞膜に存在するGタンパク共役型受容体APJに結合し、リンパ管を強化することが知られています。そこで、約200種の生薬成分の中から、APJに結合するアペリンと同等の高い活性がある「マツエキス」を見出しました。「マツエキス」は、アペリンと同様に脂肪酸によるリンパ管の不安定化を抑制する効果があることがわかりました。さらに、「マツエキス」を配合した試作品を2カ月間（朝、晩）使用したところ、ほうれい線・フェースライン・首のたるみを改善する効果があることが認められました。今後、この研究成果をスキンケア化粧品に応用すべく開発を進めていきます。皮膚にとって重要な役割を担っている毛細血管・リンパ管に関する研究については、更なる進展を図るべく引き続き注力していきます。なお、本研究成果については、米国のアトランタ（ジョージア州）で開催された米国研究皮膚科学会（SIDannual meeting※2）で発表しました。※2 SID:Society for Investigative Dermatology、皮膚科学領域では世界最大規模で、気鋭の研究者が集い先進の研究成果が発表される学会。毎年開催（本年は5月6～9日）、参加者は 25 カ国・地域から約 1,000 人規模。