株式会社ファンケルは、角層バイオマーカー(1)のひとつであるタンパク「ARG-1」(2)について研究を行っています。その中で「ARG-1」が、加齢とともに起きる糖化(3)による肌の老化兆候を、抑制することを発見しましたのでお知らせします。この研究成果は、糖化に対して「ARG-1」を増やすことが、有効なアンチエイジング方法になることを示すものです。なお、本研究成果は 2017 年 6 月 2 日~4 日に開催された日本皮膚科学会総会(於:宮城県仙台市)で発表しました。
<研究成果>
【角層中の「ARG-1」量と糖化による老化兆候の関係を確認】
シミやシワといった肌の老化兆候の誘因となる糖化は、加齢によるものだけでなく、血糖値の高い状態の人は糖化になりやすいことが報告されています。そこで、糖化による老化兆候が高いと予測される血糖値の高い被験者を用いて、糖化抑制に働く角層バイオマーカーのタンパクを探索しました。その結果「ARG-1」の量が多いほど皮膚の色が明るく(図 1)、シワの面積が少ないことが認められました(図 2)。これにより「ARG-1」に、糖化による老化兆候を抑制している可能性があることが分かりました。
【「ARG-1」が老化兆候を抑制する要因を確認】
次に「ARG-1」がなぜ老化兆候を抑制するのかを解析しました。解析方法は、糖化による生成物「AGE」(4)の老化を促進させる「RAGE」(5)に着目し、培養表皮角化細胞を用いて「ARG-1」の発現抑制有無による「RAGE」の発現量を比較しました。その結果「ARG-1」を抑制すると、抑制をしていないものに対して発現量が 10 倍にも増加していることが分かりました(図 3)。これにより、「ARG-1」は「RAGE」の発現に関与し、「RAGE」の発現を抑える機能を有して、糖化による老化兆候を抑制することが分かりました。
<本研究の背景>
糖化とは、食事で摂取した糖が身体構成するタンパクと結びつき、「AGE」が生成して蓄積される老化の過程のひとつです。シミやシワ、たるみといった老化兆候の誘因となることから、酸化と並ぶ老化促進因子のひとつとして注目されています。食事で摂取した糖は血糖値として血液より測定することができます。高血糖の状態が長期間続くと、赤血球のタンパクであるヘモグロビン(Hb)とブドウ糖が結合し、グリコヘモグロビンになります。グリコヘモグロビンのひとつであるHbAlc(ヘモグロビン・エイワンシー)(6)の値が高いと糖尿病になる可能性が高い、すなわち糖化になりやすいと言われています。そこで、糖化になる可能性が高い方として、HbAlcの高い(≧5.5%)40代から60代の健常女性26名を選び、糖化に関係する角層バイオマーカーの探索を行いました。また図 4 で示すように、肌のRAGEは 20 代より 60 代の方が多く存在しています。RAGEはAGEによる糖化の老化兆候を進める重要なタンパクであることから、探索した角層バイオマーカーとの関連について検討しました。
<本研究成果による今後の製品開発>
同社の角層バイオマーカーの研究で、角層中の「ARG-1」は酸化を調整するタンパクで、加齢とともに減少することにより老化の兆候を加速させることを解明しました。本研究で「ARG-1」が抗酸化だけでなく、抗糖化機能を有することが明らかになり、さらには「ARG-1」を増加させることで抗老化機能の効果があると考えております。今後もさらに研究を進め、抗糖化機能を主軸とした効果の高いアンチエイジング化粧品の開発を進めます。
【用語解説】
(1)角層バイオマーカー:
頬に貼ったテープ 1 枚から取れた角層のタンパクの分析から、一人ひとり異なる肌状態や老化リスクを解析するファンケル独自の測定技術。
(2)ARG-1:
アルギナーゼ 1。シミの原因となる活性酸素の発生を抑え、メラニン産生が起こらないようにバランスを調整し、シミを防ぐ力があるタンパク。身体の炎症時に増加し、正常化させる機能をもつ。ARG-1 は、生体内で発生する。iNOS (inducible nitric oxide synthase) と拮抗してL-arginineからのNO (nitric oxide) 産生を抑制する抗酸化機能を有する。
(3)糖化:
身体の中でタンパクと余分な糖が結びついてタンパクが変性、劣化してAGEs(糖化最終生成物)という名の老化物質を生成する反応のこと。AGEsは分解されにくく、AGEsの蓄積が老化や様々な病気(糖尿病、高血圧、がん等々)の原因とされる。
(4)AGE:
Advanced Glycation End Products(終末糖化産物)。タンパクと糖が加熱されてできた最終生成物質のことで、老化を進める原因物質とされる。
(5)RAGE:
Receptor for AGE (AGEs受容体)。細胞の表面にあるタンパクで、AGEsが付くと炎症や老化を引き起こす指令を出す。
(6)HbAlc:
ヘモグロビン・エイワンシー。過去 1-2 カ月の血糖値の平均を反映して上下するため、血糖コントロール状態の目安となる検査。普段の血糖値が高い人はHbAlc値が高く、普段の血糖値が低い人はHbAlc値も低くなる。HbAlc値が 5.5%未満の方は血糖値が正常範囲内、5.6-6.4%の方は血糖値が高めの人(境界型糖尿病)、6.5%以上で糖尿病と考えられる。
【※詳細は下記URLをご参照下さい】
・株式会社ファンケル 2017年8月4日発表
・株式会社ファンケル 公式サイト