国立大学法人静岡大学(以下、静岡大学)と ビタミン C60バイオリサーチ株式会社( 以下、 VC60社 は 、約5年の 共同研究 の結果、 静岡大学発の植物成長因子を世界で初めて化粧品原料として製品化 することに成功しました(製品名:レピスタ® )。
レピスタ®は、 9月28日~ 30日、インテックス大阪で開催される化粧品開発展のVC60社ブースおよび 出展社による製品・技術 セミナー( 9月28日 14時30分~)で展示・ 発表します。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
■ レピスタ®/Repista®とは
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
機能性成分2-aza-8-oxohypoxanthine (アザオキソヒポキサンチン; 以下AOH)※を1%含む水溶性化粧品原料です。AOH発見のきっかけとなったキノコの学術名(Lepista sordida)にちなんで、製品名を「レピスタ®」と命名しました。AOHはコメやトマトなど多くの食用植物が持つ成長因子ですが、含有量がごく微量のため、実用化の障壁となっていました。今般、静岡大学とVC60社は、微生物の分泌する酵素を活用してAOHを製造する技術を確立、化粧品に配合しやすくするため水溶化にも成功しました。更に効果効能や安全性を検証し、2022年10月より世界初のAOH含有化粧品原料「レピスタ®」として販売を開始します。化粧品に配合するために必要なINCI名(Aza-Oxohypoxanthine)および化粧品表示名称(アザオキソヒポキサンチン)も取得済みです。
※AOHとは
2010年、静岡大学・河岸洋和教授が、フェアリーリング(芝生の中にリング状にキノコが生える現象;図1)を形成するキノコの一種であるコムラサキシメジの培養液から発見した天然有機化合物の一種です。AOHは、植物の成長促進作用に加えて、恒常性の維持や環境ストレス耐性を高める効果も有していることが分かってきました(図2)。VC60社は、AOHが持つ植物の成長促進作用に注目し、ヒト皮膚に対しても有用な可能性があると考え、その化粧品原料化を目指して、2018年から静岡大学と共同研究を開始しました。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
■ 安全性について
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
レピスタ®の有効成分であるAOHの肌における安全性については、OECD1テストガイドライン2に準拠したin vitro安全性試験(皮膚刺激、皮膚感作性、光毒性)及びヒト試験(パッチテスト、光毒性・光感作性、累積刺激及び感作)など化粧品原料の開発に必要とされる一通りの安全性試験を行いました。実施した全ての安全性試験において毒性は認められず、その安全性が証明されました。
また、静岡大学の研究により、AOHはキノコのみならず、米などの穀物やトマト、ジャガイモ、小松菜といった野菜など、私たちが日常的に食べている植物にも含まれることが明らかになりました。以上のことから、レピスタ®は安全で、安心して使用できる化粧品原料といえます。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
■ 有効性について
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ヒト表皮角化細胞にレピスタ®を添加したところ、レピスタ®の濃度に依存して細胞増殖が認められました。これは、レピスタ®が細胞を活性化する働き(細胞賦活作用)を有していることを意味します。次にこの細胞賦活作用が、表皮細胞に対してどのような働きをしているのか調べるため、DNAマイクロアレイ解析3を行いました。その結果、レピスタ®は皮膚バリア機能を強化・改善する可能性が高いことが明らかになりました。
その上で、22名の被験者を対象として、ヒト効果効能試験(臨床試験)を実施したところ、レピスタ®配合化粧水を8週間塗布することにより、角層水分量が増加しました。また、皮膚からの水分蒸散量を示す指標であるTEWL4が統計学的有意に減少しました(図3)。有効性に関する研究は、現在も継続しており、今後より多くの知見が得られる予定です。
レピスタ®の安全性・有効性に関する研究は、学術誌への投稿とともに、学会発表も行っています。第39回日本美容皮膚科学会総会・学術大会(2021年7月31日~8月1日@京都国際会館)においては、優秀演題賞を受賞しました。
図3.角層水分量・TEWLの変化(8週後)
出典: Aoshima et al., Cosmetics, 8(3), 83 (2021) https://doi.org/10.3390/cosmetics8030083
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
■ 静岡大学 河岸洋和 特別栄誉教授 プロフィール・コメント
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
(プロフィール)
抗認知症効果をもつヤマブシタケ由来の薬理活性物質の発見、スギヒラタケによる急性脳症の化学的解明、長年謎とされていた「フェアリーリング」現象を科学的に解明し植物成長調節物質としてフェアリー化合物(FCs)を発見するなど、優れた業績を挙げ、キノコや植物を対象とした天然物化学的研究の発展に大きな貢献をしてきました。令和3年に紫綬褒章を受賞しています。
(コメント)
生物が作り出す有機化合物を発見する学問分野を「天然物化学」と言います。この成果は産学の緊密な連携によって生まれました。今回の化粧品原料としての上市は,この分野の大きな成果となるでしょう。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
■ 用語説明
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
1:OECD:Organization for Economic Co-operation and Development(経済協力開発機構)
2:OECDテストガイドライン:化学物質やその混合物の安全性を評価するための国際的に合意された試験方法のコレクション
3:DNAマイクロアレイ解析:細胞内の遺伝子発現量を測定するために、多数のDNA断片をプラスチックやガラス等の基板上に高密度に配置した分析器具を使用して、短時間で数多くの遺伝子の発現を解析する手法
4:TEWL:Transepidermal Water Loss(経皮水分蒸散量)
【詳細は下記URLをご参照ください】
・静岡大学 2022年9月20日発表
・静岡大学 公式サイト