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「体細胞の燃焼を制御する酵素の発見 -栄養のとりすぎによる肥満と耐糖能悪化の改善につながる成果-」について/東北大学

栄養のとりすぎによる肥満は、2型糖尿病などの生活習慣病を引き起こす原因となります。近年、肥満が社会全体に蔓延しており、その予防・治療法の開発が喫緊の課題となっています。人を含む恒温動物は、寒冷環境に長く晒されると、エネルギーの貯蔵と供給を担う白色脂肪組織を、脂肪を燃焼して熱を産生するベージュ脂肪細胞注4に変化させる仕組みをそなえています(図1)。ベージュ脂肪細胞は脂肪を活発に燃焼させることから、ベージュ脂肪細胞の誘導が肥満症の新規治療・予防戦略として注目されています。

東北大学大学院医学系研究科/東京大学先端科学技術研究センターの酒井寿郎教授らの研究グループは、エピゲノム・プロテオミクス解析注5を行い、通常は、タンパク質脱リン酸化酵素(MYPT1-PP1β)注6がエピゲノムの書き換え酵素と転写調節の両方を制御することでベージュ脂肪細胞の誘導を抑制していることを明らかにしました。その一方で、寒冷刺激下では、活性化された細胞内でタンパク質リン酸化酵素(PKA)がMYPT1-PP1βを阻害し、ベージュ脂肪細胞を誘導することが明らかとなりました。また脂肪組織特異的にMYPT1を欠損させたマウスは、高脂肪糖質食を与えても太りにくく、耐糖能異常を引き起こしにくい ことがわかりました。同研究成果は、肥満や生活習慣病に対する新たな治療法や予防法への応用が期待されます。

同研究成果は2022年9月29日にオンライン版国際科学誌『Nature Communications』に掲載されました。

図1.長期的な寒冷環境によって、白色脂肪組織中にベージュ脂肪細胞が誘導され、慢性の熱産生を担う。

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■ 発表のポイント
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◎長期に持続する寒さに対し、恒温動物は脂肪組織の質を変化させることで、脂肪を燃焼して熱を産生し、体温を維持することができる。

◎この脂肪組織の質を変化させる過程で、タンパク質脱リン酸化酵素注1の働きが抑制されることで、エピゲノム注2の変化と転写因子注3を介した転写の活性化が誘導されることを解明した。

◎肥満や生活習慣病に対する新たな治療法や予防法への応用が期待される。

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■ 用語解説
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注1.タンパク質脱リン酸化酵素:タンパク質からリン酸基を取り除く酵素。

注2.エピゲノム:ゲノムの塩基配列以外の後天的に書き換えられる遺伝情報を指す。DNAのメチル化修飾、ヒストンのメチル化やアセチル化等の化学修飾など。

注3.転写因子:特定のDNA配列を認識し、結合することができるタンパク質。他のタンパク質と相互作用することで、遺伝子の発現を強めたり、弱めたりする。

注4.ベージュ脂肪細胞:脂肪を消費し、熱を産生する働き持つ脂肪細胞。長期にわたる寒冷刺激で、皮下の白色脂肪組織内に誘導されてくる。肥満や糖尿病を予防する働きがある。

注5.エピゲノム・プロテオミクス解析:エピゲノム解析は、細胞の中のDNAのメチル化、ヒストンのメチル化やアセチル化などを調べる手法。プロテオミクス解析は、細胞の中の多様な種類のタンパク質を網羅的に調べる手法。

注6.MYPT1-PP1β:タンパク質脱リン酸化酵素の調節タンパク質と触媒タンパク質。複合体形成し、標的タンパク質のリン酸機を取り除く。

【詳細は下記URLをご参照ください】
東北大学   2022年10月17日発表
東北大学   2022年10月17日【PDF/詳細】発表
東北大学   公式サイト

2022年10月17日 17:05

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