森林総合研究所(茨城県つくば市)秦野恭典複合材料研究領域長らの研究グループは、農林水産省の「地域活性化のためのバイオマス利用技術開発」プロジェクトの中で京都大学生存圏研究所、京都府立大学、庄内鉄工(秋田県能代市)と共にスギやヒノキからの木製単層トレーの開発に成功した。
3枚の単板を貼り合わせた木製の重層トレーは従来もあったが、価格が高く土産品などでの販売が主で、一般利用には適さなかった。単層トレーの開発に成功したのは同研究チームが初めてで、二酸化炭素の排出量が重要視される低炭素環境社会において石化樹脂トレーに代わる製品として注目を集めている。
石化製品に代わるトレーとして一般的に利用されるために同研究グループが配慮したのは”曲げ角度”と”コスト”。曲げ角度は1~2㍉㍍の木製シートを水と熱によりプレス機で成形し、最大60度、深さ30㍉㍍を実現した。木材に残る水分を上手く排出しながら製造する技術で特許も出願済み。
コストは石化製品のようにコンビナートを必要としない成形方法であり、使用する材料は林地の残材や間伐材などで、主に”タンコロ”と呼ばれる伐採した木材の根っこに近い部分。
用材として使用できないため主にチップ材などとして若干利用される木材で、タンコロを使用すれば輸送コストを除くと原材料コストはほとんど掛からない。
ただ、そのタンコロの輸送や加工に多少のコストが掛かるため、現在の石油価格で製造した石化製品よりも安価に設定するというのは難しい。
大まかな目安としてはトレー1枚当たり30円程度。大量に製造されることでこれを15円程度での価格にまで下げることは可能。
一般的に広く利用されるために必要な耐水性や耐油性では、多少の難点があり、耐水性ではトレーに木材の折りたたみ(深絞りトレーの場合にできる)継ぎ目がある場合そこから水漏れの恐れがある。
油分は、染み込むだけでそれによってトレーが損なわれることはないが、染み出してしまう恐れがある。食品容器として利用するために、PEやPPフィルムなどをラミネートすることも検討中。
利点はカーボンニュートラルであること以外にも木製のシートをプレスし成形するため木目がそのまま残り、杉や檜の杉材の場合では、杉の芳香がする。
食品に直接触れる場合では匂い移りの可能性もあるが、その匂いが喜ばれる場合もあり、例えばキノコ類や農産物などのトレーとしては、演出においても最適。
また、木製であることで容リ法の適用外となり、各ユーザーの負担となっている委託料の軽減にもつながる。同トレーだけを使用すれば委託費用は全く必要ない。
同研究チームは今後も技術開発を進めていき、歴史的に古く包装材として利用されてきたが石化樹脂の普及により衰退していった経木文化の再興を目指す。