株式会社ファンケル(本社:横浜市中区、代表取締役社長執行役員:成松義文)は、創業以来「無添加化粧品」のパイオニアとして、「安心・安全・やさしさ」を根幹とした研究開発を続けてきました。
特に、「肌が本来持つ力を活かし、さらにその力を高めるスキンケア」という考え方は、無添加化粧品の根幹をなす概念として重要であり、なかでも、自然免疫 ※1というヒトが生まれながらに持っている肌本来の力による外界からの生体の防御機構について、北里大学医学部皮膚科学教室(勝岡 憲生教授)と共同研究を進めてまいりました。
この度、汗の中に含まれる抗菌性のタンパク「ダームシディン ※2」の減少が、アクネ菌を原因とする炎症性ニキビ※3(赤ニキビ)の発生しやすさと関係がある可能性を見出しました(図1)。この新たな研究知見について、2010年5月5日から8日にアメリカ合衆国・アトランタで行われた米国研究皮膚科学会(70 thAnnual Meeting of Society for Investigative Dermatology)において、発表いたしましたので、ご報告いたします。
以下に研究の概要および結果をお知らせいたします。
<研究の概要>
研究の経緯
ヒトは生まれながらに、「自然免疫」という、外界の微生物から身を守るための生体防御システムを持っています。皮膚が物理的バリアを形成し、抗菌性物質などを分泌することも、その働きの一部です。当社では、「肌が本来持つ力を活かす」という観点から、皮膚科学分野の基礎研究として「自然免疫」の研究に力を入れて取り組んでまいりました。(北里大学医学部皮膚科学教室との共同研究)
自然免疫に関与する抗菌タンパクの 1つであるダームシディンは、エクリン汗腺※4から出る汗の中に分泌される抗菌タンパクですが、汗とともに恒常的に皮膚上に分泌されています。ダームシディンは、外界微生物から皮膚を守り、かつ皮膚の健康維持に関与する皮膚常在菌にも影響を与えている可能性があることから注目されていましたが、皮膚状態とダームシディンの関わりについては、ほとんど実証されていませんでした。本研究ではこの「ダームシディン」に着目し、ニキビとの関係について研究いたしました。
研究の方法と結果
STEP1.皮膚上のダームシディン量がニキビの炎症に関与していると仮定
炎症性ニキビは、毛穴が詰まってアクネ菌 ※5が増殖し、脂質を刺激性物質に分解したり、自然免疫系を介して炎症を引き起こすことが原因と考えられています。また、皮膚上のダームシディンが減少することによりアクネ菌の増殖しやすい皮膚状態となり、炎症性ニキビを引き起こしてニキビが悪化すると考えられます(図1)。すなわち、皮膚上のダームシディンを増やすことで、アクネ菌が増殖しにくく炎症性ニキビの起こりにくい状態を作ることができると仮定し、機能の解析を行いました。
STEP2.ニキビ患者の汗のダームシディン量の解析結果
ニキビとダームシディンの関わりを明らかにするため、ニキビ患者の汗を解析しました。思春期に重症の炎症性ニキビの既往歴があるニキビ患者 15名(ニキビ群)と、思春期にニキビが軽症であり現在はニキビの無い非ニキビ者 14名(非ニキビ群)から、運動により発汗した汗を採取し、汗中のダームシディン濃度を評価しました。 その結果、ニキビ群の汗中ダームシディン濃度は、非ニキビ群に比べて有意に低いことがわかりました。 このことから、炎症性ニキビの発症にダームシディンの量比が関与している可能性が示唆されました。
STEP3.ダームシディンのアクネ菌に対する抗菌活性の測定結果
ダームシディンがアクネ菌の増殖を抑えることができるか確認するため、ダームシディンタンパクを作製し、アクネ菌に対する抗菌活性※6を調べました。その結果、ダームシディン量が多いほど、アクネ菌を殺菌することがわかりました。これまでダームシディンは黄色ブドウ球菌や大腸菌などについて殺菌することが知られていましたが、アクネ菌を殺すことは初めて確認されました。この結果から、十分な量のダームシディンがあればアクネ菌の生育を抑えることができ、ダームシディンが減少することがアクネ菌に対する殺菌率(%) 炎症性ニキビへのなりやすさに関係している可能性が示されました。
(考察)
以上の結果から、汗に含まれるタンパクの「ダームシディン」は、皮膚上に高濃度で存在するほど、ニキビの原因菌であるアクネ菌を効率的に殺菌できることを確認しました。また、皮膚上のダームシディンの量は、ニキビの炎症の促進や抑制に関与することも明らかになりました。
研究発表と今後の展開
本研究は、ファンケルと北里大学医学部との共同研究による成果であり、 2010年5月5日から8日にアトランタで行われた、米国研究皮膚科学会 ※7(70th Annual Meeting of Society for Investigative Dermatology)において、「 Reduced expression of dermcidin, a peptide active against Propionibacterium acnes, in the sweat of acne vulgaris patients」として、発表致しました。
当社では今後、皮膚上のダームシディン量を増やすという皮膚の恒常性に着目し、自然免疫と皮膚の健康に関する研究を進めてまいります。また、今後も無添加化粧品のパイオニアとして、安心・安全・やさしさのための研究を通じ、無添加の可能性を広げられるよう研究開発を行ってまいります。
研究者のコメント
病的な症状を緩和するための研究だけでなく、健康な肌を維持するための皮膚機能の研究に視点をおき、研究を続けています。「無添加のファンケル」だからこそ、大切にしている研究分野です。今後も、新しいアプローチで皮膚科学研究を進めていきたいと思います。
◆吉野崇<よしの・たかし>(写真右)
・株式会社ファンケル 総合研究所安全性品質研究センター研究員。
・1999年大阪大学大学院医学研究科修士課程卒業。同年、株式会社ファンケルに入社。ヒト皮膚や培養細胞における化粧品素材の安全性・有効性研究、経皮吸収研究などの経験を経て、現在は皮膚の生理学研究に従事。北里大学大学院医療系研究科一般研究員に籍を置き、抗菌タンパクの研究に取り組んでいる。
◆藤村響男<ふじむら・たかお>(写真左)
・北里大学医学部皮膚科学講師兼 大学院医療系研究科環境皮膚科学/皮膚科学講師
・「生体防御と免疫系(皮膚免疫学・細菌学・免疫学)」に関する研究に注力。新潟大学、北里研究所メディカルセンター、北里大学、米国カリフォルニア大学バークレー校における研究成果を発展させ、現在は北里大学医学部において皮膚自然免疫・感染防御免疫を皮膚疾患の予防・治療に応用するための研究に日夜邁進している。
【 用語解説 】
※1 自然免疫
自然免疫とは、病原菌やウイルスから身を守るために生体が生まれながらに持っている防御システムです。これに対して、生体が生後抗原と接触することにより後天的に獲得する免疫を獲得免疫といいます。ファンケルでは、自然免疫の機能を「力」としてイメージし、自然免疫力と呼んでいます。
※2 ダームシディン
ダームシディンは、エクリン汗腺から出る汗の中に分泌される抗菌タンパクですが、汗とともに恒常的に皮膚上に分泌されているため、外来微生物から最初に身を守る役割があると考えられています。
※3 炎症性ニキビ(赤ニキビ)
ニキビの周囲で炎症が起こった状態で、赤く見えるため俗に赤ニキビとも呼ばれます。毛穴の詰まり、皮脂分泌の増加などにより「面ぽう」と呼ばれる非炎症性ニキビになります。面ぽう内でアクネ菌が増殖し、炎症を誘導する物質を分泌するため、炎症性ニキビになるといわれています。
※4 エクリン汗腺
皮膚の全体表面に分布している汗腺で、発汗による体温調節を行っています。一人当たり 200万~300万個のエクリン汗腺があり、特に手のひら、足の裏、顔面に高い密度で分布しています。
※5 アクネ菌
Propionibacterium acnes(プロピオニバクテリウムアクネス)。主に毛包に生育する皮膚常在菌で、皮脂を栄養にして増殖します。皮膚を弱酸性に保つ物質を分泌し、皮膚の pH調節を行っています。アクネ菌の増殖が炎症性ニキビのトリガーになると考えられています。
※6 抗菌活性
殺菌作用または菌の生育や増殖を抑制する作用のこと。その作用メカニズムは物質によって異なります。
※7 米国研究皮膚科学会(70th Annual Meeting of Society for Investigative Dermatology)
米国研究皮膚科学会は、The Society for Investigative Dermatologyが主催する米国で最も権威ある皮膚科学領域の学会です。