株式会社ファンケル(本社:横浜市中区、代表取締役社長執行役員:成松義文)は、総合研究所での基礎研究を通じ、メークアップ化粧品の仕上がり効果や化粧持ちの向上効果に着目した、新たな無機粉体 ※1の研究開発を進めてまいりましたが、この度、東北大学多元物質科学研究所を中心とするグループと当社で、油で濡れても色調の変化が少なく、化粧持ちが向上する肌色のパウダー「ブライトキープパウダー」の新素材開発に成功いたしました。<特許出願中>同素材は板状形状のため、肌への塗布時の滑り性が高く、さらに自然な光沢も兼ね備えています。
なお、この研究成果は、2010年 9月 20~23日にアルゼンチンブエノスアイレスで行われた「第 26回 IFSCC Congress※2」において発表いたしましたので、ご報告いたします。
また、新開発したパウダー素材は、無添加メークシリーズの「パウダーファンデーション」に配合し、同製品を2010年 9月 17日にリニューアル発売いたしました。
以下に研究の概要および結果をお知らせいたします。
【研究の概要】
研究の経緯・目的
パウダーファンデーションなどのベースメークアイテムは、肌表面の色ムラを美しく整えることが大切な要素の 1つであり、肌に色調を施すことを目的に着色顔料が配合されています。しかしながら、一般的に使用されるベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄などの着色顔料は、皮脂などの油で濡れると色調が暗く変化することから、 化粧持ちが悪くなってしまう原因の一つだと考えられています。
そこで当社では、2006年に独自開発した化粧品素材で、高い滑り性と適度な光沢が特長の「板状形状のチタン酸リチウムカリウム」<特許出願中>をもとに、油で濡れても色調の変化が少なく、長時間仕上がりの美しさを維持できる素材をさらに開発するべく、東北大学多元物質科学研究所を中心とするグループと当社で共同開発を続けてまいりました。
その結果、鉄をドープ(固溶化)した板状形状のチタン酸リチウムカリウム(以下、鉄ドープ板状チタン酸と称す)の新開発に成功し、「形状の観察」、「油に濡れた時の色調の評価」、「滑り性の評価」などの特性を評価するとともに、同素材(メーク素材名=ブライトキープパウダー)を配合したファンデーションについても、色調変化や自然な光沢の有無を評価しました。
<研究の方法および結果>
Step1 肌色で板状形状の「ブライトキープパウダー」を新開発
開発にあたっては、当社が独自開発した「板状形状のチタン酸リチウムカリウム」の合成時に様々な鉄化合物を加えました。その結果、硫酸鉄、酸化鉄、アセチルアセトナート鉄を加えた場合、チタン酸リチウムカリウムに鉄イオンが固溶化していることを確認し、肌色で板状形状を有するパウダーを合成することに成功しました(図1)。
Step2 「ブライトキープパウダー」による色調変化の評価結果
大きい 合成したブライトキープパウダーに油を加え、油の添加前後で色調を比較しました。また、鉄イオンを固溶化していないチタン酸リチウムカリウムや、化粧品でよく用いられる板状形状の粉末原料である板状硫酸バリウム、タルクをそれぞれ酸化鉄と混合して、同様の色調に調整した混合物についても比較評価しました。
その結果、ブライトキープパウダーは油で濡らした場合の色調の変化が最も小さいことが確認されました(図 2)。
(a) ブライトキープパウダー,(b)酸化鉄とタルクの混合物,(c)酸化鉄と板状硫酸バリウムの混合物,
(d)酸化鉄とチタン酸リチウムカリウムの混合物
Step3 「ブライトキープパウダー」による滑り性の評価結果
次に、ブライトキープパウダーの摩擦係数を測定しました。また、化粧品でよく用いられる板状形状の粉末原料およびそれぞれの酸化鉄との混合物について比較評価しました。その結果、ブライトキープパウダーが、最も滑り性が高いことが確認されました(図3)。
当社では、新たに開発したメーク素材を「ブライトキープパウダー」と命名し、特許を出願いたしました。新素材を配合したファンデーションについても、色調変化や自然な光沢の有無を評価したところ、①皮脂など油の影響で肌がくすみにくい②塗布時の使用感が滑らか③自然な光沢感がある、などの特長があることが分かっています。
[研究発表と今後の展開]
ファンケル総合研究所では、本研究の成果を本年9月20日から23日にアルゼンチンのブエノスアイレスにて開かれた「第26回IFSCC Congress」で「The Preparation and Characterization of Tabular Fe-Doped PotassiumLithium Titanate, and Its Application to Make-up Cosmetics」としてポスター発表いたしました。また、2010年12月1日にIFSCCの国内研究発表会で発表する予定です。 当社では今後も、メークアップ化粧品の仕上がり効果や機能性に着目した開発に取り組んでまいります。
【研究者のコメント】
IFSCCでのポスター発表ではフランス、スイス、日本など世界中多くの方々にブースにお立ち寄りいただき、興味・関心を持っていただけました。メークの仕上がり効果に関する研究は、日本国内だけではなく、世界が注目している分野であることをあらためて実感しました。 今後も引き続き、化粧品やメークアップアイテムの使用により、肌をきれいに見せるための研究を続けていきたいと思います。
Profile 住吉 明希子(すみよし・あきこ)
㈱ファンケル 総合研究所 化粧品研究所 処方開発第一 G 所属。2004年11月に㈱ファンケル入社。以来、無添加のメークアップ化粧品の処方開発に従事。
【 用語解説 】
※1 無機粉体
アレルギー症状をおこしにくく、安全性が比較的高い成分と言われ、ナチュラルな発色が得意な一方で、一般的には鮮やかな発色を実現することが難しいとされています。紫外線や熱などによる変色が少なく、色調の安定性をキープすることができます。
※2 IFSCC Congress
日本化粧品技術者会の母体組織である国際化粧品技術者連盟(The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists、略して IFSCC)は世界各国の化粧品技術者会の連合組織。IFSCCは化粧品開発のための諸活動を国際規模で行っており、この行事のうち、最大なものは各国の化粧品技術者が一堂に介して、研究成果を発表し、討論することを目的として開催される学術大会です。この学術大会には西暦偶数年に開催される Congressと西暦奇数年に開催される Conferenceに分けられ、当社は本研究に関し 2010年の Congressにて発表しました。