花王株式会社(社長・尾崎元規)ヒューマンヘルスケア研究センターでは、オーラルケアに関して、口内環境を健康に保つことの重要性について研究しています。
口腔の不調の要因のひとつとして、ストレスなどによる唾液の分泌減少があります。また、身体の不調にもストレスが関係していることが知られています。口腔の不調と身体の不調には何らかの関連があると考えられますが、両者の関連性についてはほとんど調べられていません。そこで今回、女性551名(全国在住 20~59歳)を対象に、口腔の不調と身体の不調について意識実態調査を行ない、統計手法を用いた解析を行ないました。
その結果、口のネバつき・口臭・口の乾きなどの口腔の不調と、冷え・むくみなどの身体の不調が関連していることが示唆されました。また、これらの口腔の不調は、ストレスが高いほど感じやすいこともわかりました。
口内環境が悪化すると口のネバつき・口臭・口の乾きといった口腔の不調を感じやすくなることが知られています。このことから、身体の不調やストレスを感じた時は口内環境の悪化も意識し、オーラルケアを心がける必要があると考えられました。
この研究結果は、第83回日本産業衛生学会(2010年5月26~28日)において発表しました。また、今回得られた知見はオーラルケア商品の開発研究に応用していきます。
■研究背景
口内環境とは、歯や歯ぐき、舌などの組織を取り巻く口腔全体の状態を指しますが、その口内環境を司るもののひとつに唾液があります。唾液には、食物の消化作用や口内を中性に保つ緩衝作用、むし歯の再石灰化作用のほかに、口内の浄化作用や殺菌作用などもあり、これらのはたらきによって口内環境は清浄に保たれています。
ところが、ストレスなどの影響でこの唾液の分泌が減少すると、口内環境が悪化します。口内環境の悪化によって、歯や舌の表面に付着した口腔細菌がバイオフィルムと呼ばれる集合体を形成して増殖し、ネバつきや口臭などの成分を産生し、口腔の不調や口腔疾患につながります。一方、ストレスは冷えなどの身体の不調にも影響することが知られています。
しかし、今までに口腔の不調と身体の不調の関連性について調べられたデータはほとんどありませんでした。そこで、今回は、両者の関連性について検討しました。
■研究結果
女性551名(全国在住20~59歳)を対象に、口腔や身体の不調に関する意識実態調査を行ない、統計解析した結果、以下のことがわかりました。
1.口腔の不調は、7つのグループに分類される
(添付資料1:http://www.kao.com/jp/corp_news/2010/pdf/20101020_001_01.pdf)
口腔の不調に関する28項目について、因子分析*1 によって関連の高い項目ごとに分類しました。
その結果、口腔の不調は、「歯周病因子」「歯の着色・付着因子」「口内環境悪化因子」「むし歯因子」「歯の痛み・炎症因子」「咬合因子」「口腔粘膜刺激因子」の、7つの独立したグループに分類できることがわかりました。以下、この7つのグループのことを「口腔不調7因子」と表します。
*1 因子分析
複数の質問項目に対する回答の結果から、回答者の反応の似ている項目を同じグループとしてまとめ、分類していく統計解析方法。
2.「口内環境悪化因子」が多くの身体の不調と関連
(添付資料2:http://www.kao.com/jp/corp_news/2010/pdf/20101020_001_02.pdf)
上記の「口腔不調7因子」と、日常生活において女性が感じやすい身体の不調11項目(冷え・むくみ・ドライアイ・胃の不調・肩こり・腰痛・目の疲れ・不眠・疲労感・倦怠感・イライラ感)との関連性を、ロジスティック回帰分析*2 にて調べました。
その結果、口腔の不調と身体の不調には多くの関連性があることが示唆されました。特に、「口内環境悪化因子」(ネバつき・口臭・乾きなど)はほかの因子に比べて身体の不調との関連が強く、腰痛以外の身体の不調10項目と有意に関連性が認められました。その中でも、冷え・むくみ・胃の不調・疲労感・倦怠感との関連が強い可能性があることがわかりました。
*2 ロジスティック回帰分析
2つの事象の関係を関数モデルにあてはめて、両者の関連を推定する統計解析方法。
3.ストレス度が高いほど口腔の不調も高い傾向
(添付資料3:http://www.kao.com/jp/corp_news/2010/pdf/20101020_001_03.pdf)
口腔の不調とストレスとの関連性について、調査対象者をストレススコアから「重度、中程度、軽度、なし」の4つのストレス度群に分け、「口腔不調7因子」の不調の高さを表す因子得点を、群ごとで比較しました。
その結果、ストレス度が高いほど口腔の不調が高くなりました。特に「口内環境悪化因子」については、4つのストレス度群間で有意差があり、ほかの因子に比べてストレスとの関係が強いことが推測されました。
また、参考として、調査対象者を有職者(フルタイム就労)277名と専業主婦274名に分けた解析も行ない、有職者の方が専業主婦に比べてストレス度が高く、身体の不調や「口内環境悪化因子」の不調も強く感じていることがわかりました。この結果からも、ストレスが口腔と身体両方の不調に影響していると考えられました。
■研究方法
【調査期間】
2009年4月
【対象者】
全国在住の20歳から59歳の女性551名(平均年齢39.7±10.8歳)
【調査方法】
インターネットによる調査
【調査項目】
口腔の不調(全28項目)、身体の不調(全35項目:ストレス度を判定できる「ストレスチェックリスト(SCL*3 ;一部改変)」30項目を含む)
※口腔の不調は3択(あてはまる、ややあてはまる、あてはまらない)
※身体の不調は2択(あてはまる、あてはまらない)
*3 SCL
Stress Check List、村上ら、心身医療、1、72-82(1989)
【解析方法】
(1)口腔の不調の分類
口腔の不調28項目で因子分析*1 を実施。
抽出された7因子(口腔不調7因子)に因子名を付与。
(2)口腔の不調と身体の不調との関連性
「口腔不調7因子」の各因子得点を独立変数とし、身体の不調の有無を従属変数として、ロジスティック回帰分析*2 を実施。
(3)口腔の不調とストレス度との関連性
SCL項目の該当数であるストレススコアから、以下の4つのストレス度群に分類し、群ごとで「口腔不調7因子」の各平均因子得点を比較。群間比較の検定は、Tukey-Kramer検定を実施。有意水準は5%未満。
・ストレスなし:0点
・軽度ストレス:1~10点
・中程度ストレス:11~20点
・重度ストレス:21~30点
*1 因子分析
複数の質問項目に対する回答の結果から、回答者の反応の似ている項目を同じグループとしてまとめ、分類していく統計解析方法。
*2 ロジスティック回帰分析
2つの事象の関係を関数モデルにあてはめて、両者の関連を推定する統計解析方法。