株式会社日本スウェーデン福祉研究所(JSCI:東京都港区赤坂、代表取締役社長:中込 敏寛)は、認知症の緩和ケア手法である「タクティールケア」の普及活動を国内で行っていますが、この度、浜松医科大学 地域看護学講座 鈴木みずえ教授により、「タクティールケア」が認知症患者に及ぼす影響と期待される効果が発表され、患者の身体的・心理的機能および症状を維持・改善する効果が認められました。
鈴木教授は、2009年9月から11月までの期間の6週間にわたり、高齢(平均88.3歳)の重度認知症の患者を対象に、「タクティールケア」の効果に関する研究を行いました。具体的には、性別、年齢、認知症の種類、認知機能、およびADL(日常の基本動作)が、それぞれ一致する患者を20名ずつ合計40名を選定し、一方の20名には「タクティールケア」を施し、もう一方の20名には「タクティールケア」を施さずに、従来通りの音楽療法や作業療法を継続し、その結果を比較するという研究内容でした。
タクティールケアは、6週間週5回合計30回、毎回夕方4時から5時までの内の20分間、施術されました。最終的に、転院、退院、体調不良などを除いて、6週間に亘る(合計30回)「タクティールケア」を継続することができた患者は、20名中14名でした。6週間後に、それら14名の患者と対になる、「タクティールケア」を施していない14名の患者の身体的・心理的機能、および認知症の行動心理学的症状と比較しました。
効果測定は、認知症アセスメントであるBEHAVE-AD(*)に基づき、徘徊や不安、妄想、幻覚などの周辺症状を、また、認知機能検査手法であるMMSE(*)に基づき、認知機能を様々な側面から計りました。
その結果、「タクティールケア」を施した患者においては、周辺症状の一つである「攻撃性」が大きく軽減されるという結果に至りました。一方で、「タクティールケア」を施術していない患者においては、「攻撃性」に変化は見られませんでした。
さらに、「タクティールケア」を施していない患者においては、6週間の間に知的機能や感情機能が著しく低下したのに対し、「タクティールケア」を施した患者においては、これらの機能が6週間、低下せず維持されました。このように、今回の研究により、「タクティールケア」は、認知症である高齢者のストレスを軽減し、知的機能と感情機能を維持し、攻撃性を緩和させる効果があるということが示唆されました。
(*)BEHAVE-AD:日本語版 Behavior Pathology in Alzheimer’s Disease (BEHAVE-AD) は、アルツハイマー型認知症にみられる精神症状と、それに対する薬物療法の効果を判定するために作成されたアセスメントスケールです。全般評価7項目と、具体的行動に関する25項目から構成されています。
(*)MMSE:アルツハイマー型認知症などの疑いのある患者のために考案された簡便な検査方法。被験者に対し、主に記憶力、計算力、言語力、見当識などを口頭による質問形式で検査する。
(参考)
<JSCIとは>
JSCIは、認知症緩和ケア教育に関するスウェーデンの専門機関である「財団法人シルヴィアホーム」が開発・実施している教育プログラムを、日本国内で独占的に運用している唯一の企業です。「シルヴィアホーム」は、スウェーデン王国のシルヴィア王妃の母君が認知症を患い、王妃が自ら介護を経験されたことをきっかけに設立された機関で、同機関との提携に基づいて実施するJSCIの講習会は、認知症患者の高いQOL(Quality of Life:生活の質)を実現することを目的としていることが特徴です。
<タクティールケアとは>
福祉先進国であるスウェーデンで開発された認知症やがん患者などが抱える痛みや不安を和らげる緩和ケアの補完的手法のひとつ。看護者や介護者の手で患者の手足や背中などを柔らかく包み込むように触れ、肌と肌との触れ合いによるコミュニケーション。