ライオン株式会社(社長・藤重貞慶)研究開発本部生命科学研究所は、首都大学東京・藤井ふじい宣のぶ晴はる教授、京都大学・伏木ふしき亨とおる教授と共同で、高血糖の抑制に関する研究に取り組み、高血糖の人は健常な人と比べて血液から筋肉への糖の取り込み量が減少していることに着目し、その増加のためのアプローチを進めてまいりました。そして、この度以下の知見を世界で初めて確認しました。
(1)「田七人参」の微量含有成分「パナキサトリオール※1」に血液から筋肉への糖の取り込み量を増加させ、高血糖を抑制する作用があることを発見
(2)社内ヒト試験により「パナキサトリオール」は、食後血糖値だけでなく空腹時血糖値にも効果があることを確認
この研究成果は『第65回日本栄養・食糧学会 (2011年5月13日~15日 東京 )』、『第71回アメリカ糖尿病学会 (2011年6月24日~28日 アメリカ、カリフォルニア州)』において発表する予定です。
※1 田七人参の主成分「サポニン」と類似した構造を持つ脂溶性の機能成分
【田七人参(学名:Panax Notoginseng)】
中国雲南省原産のウコギ科の植物。古来より「金不換」(金にも換えがたいほど価値があるもの)と言われ、種を植えてから収穫まで3~7年かかることから、三七人参とも呼ばれる。主成分はサポニンで、高麗人参の3倍以上含まれている。
1.研究の背景
「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)」は、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常のうちいずれか2つ以上をあわせもった状態のことをいい、今や40~74歳の男性の2人に1人、女性の5人に1人が強く疑われる人または予備群といわれています※2(該当者数約1,070万人、予備群者数約940万人、計約2,010万人)。その要因として、過食や運動不足といった生活習慣があげられ、放置すると深刻な生活習慣病へと進行します。生活習慣病の中で、高血糖がさらに進んだ糖尿病は、さまざまな合併症を引き起こすリスクがあり、進行する前に早期に対処することが極めて重要です。
※2 厚生労働省「平成19年 国民健康・栄養調査結果の概要について」
同社は、このような現状をふまえ、高血糖の抑制に関する研究に取り組んでまいりました。糖代謝と筋肉の関連性について研究を進めている首都大学東京・藤井宣晴教授らとの共同研究により、高血糖を抑えるには、糖の摂取を抑制するだけでなく、摂取した糖を充分に消費することが大切であるとの視点に立ち、血中の糖を最も多く消費する器官は全身の筋肉であること、高血糖の人は、健常な人と比べて血液から筋肉への糖の取り込み量が減少していることから、筋肉での糖の取り込みを増加させることを目的に研究を進めました。
2.研究内容の詳細
2-1.「田七人参」の微量含有成分「パナキサトリオール」に、筋肉での糖の取り込みを増加させる作用があることを確認
筋肉での糖の取り込みを活性化させることで高血糖を抑制できるとの考えから、筋肉での糖代謝を回復する機能をもつ成分の探索を行いました。筋肉細胞を用いた糖の取り込み実験、高血糖マウスでの高血糖抑制効果の実験により、植物素材を中心とする約1,000種類の素材の評価を行った結果、「田七人参」に最も高い効果があることを見出しました。さらに、田七人参に含まれ効果を発現する成分の特定を行った結果、「パナキサトリオール」が大きく関係していることがわかりました。
「パナキサトリオール」は「田七人参」の特徴成分であり、その含有量はわずかであることから、同社独自の技術開発により、「田七人参」を乾燥させて粉砕して作成した「田七人参原末」から「パナキサトリオール」の含有量を高めた「田七人参加工末」を調製し、その後の検討に用いました。
筋肉への糖の取り込み作用を評価するため、実験は、高血糖状態にあるマウスに「パナキサトリオール」の含有量が多い「田七人参加工末」を混入させた餌を10日間摂取させ、「パナキサトリオール」を含まない餌を同じように摂取させたマウスを比較対照として、標識ラベルした糖(2-デオキシグルコース)を用いて下肢筋肉への糖の取り込み量の測定を行いました。その結果、「パナキサトリオール」を摂取することで、有意に筋肉への糖の取り込み量が増加することを確認しました(図1)。
2-2.同社独自の「田七人参加工末」には食後血糖値だけでなく空腹時血糖値にも抑制効果があることを確認
従来、食品で高血糖値を抑制する手段として、食事制限や糖質の消化・吸収を抑制する成分の摂取があげられます。これらの手段は、血糖値が食後に急激に上昇するのをゆるやかな上昇へと抑える一時的な作用があります。しかし、高血糖を抑制するには、食後の急激な上昇を一時的に抑えるだけでなく、食後の血糖値のベースとなる空腹時の血糖値が継続的に正常な範囲に抑制されていることも重要です。そこで、「田七人参加工末」の食後及び空腹時血糖に対する効果を調べました。
(1)モデル評価で「田七人参加工末」が高血糖の抑制に効果があることを確認
高血糖状態にあるマウスに、「通常の餌」、「田七人参原末」を含む餌、「パナキサトリオール」の含有量が多い「田七人参加工末」を含む餌をそれぞれ4週間摂取させ、週1回、決まった時間に血糖値(随時血糖値)の測定を行いました。その結果、「田七人参原末」、「田七人参加工末」を摂取することで、血糖値の上昇が抑制され、その効果は「田七人参原末」よりも「田七人参加工末」の方が有意に高いことを確認しました(参考資料参照:図1)。
また、摂取10日目時点で食後(ブドウ糖を用いた糖負荷後)の血糖値の変化を調べました。その結果、食後血糖値は「田七人参原末」に比べ、「田七人参加工末」の摂取により、上昇をより低く抑えることを確認しました(参考資料参照:図2)。
(2)ヒトでも「田七人参加工末」が高血糖の抑制に効果があることを確認
次に、「田七人参加工末」のヒトでの高血糖抑制効果を評価するため、血糖値がやや高め(空腹時血糖値100mg/dL以上またはHbA1c※3が5.1%以上)の20代から50代の成人男女12名を対象に、「田七人参加工末」含有カプセルを1日1回、8週間午前中の食間に摂取してもらい、摂取前後の空腹時血糖値と、食後血糖値(澱粉を中心とした食事を摂取した後の血糖値の推移)の変化を調べました。その結果、「田七人参加工末」含有カプセルの摂取8週間後では、摂取前と比較して、空腹時血糖値は平均107.3mg/dL→101.8mg/dL(p<0.01,図2-1)、また、摂取8週間後の食後血糖値(120分後)は平均156.1mg/dL→140.4mg/dL(p<0.001,図2-2)と有意な低下が確認されました。これらの結果より「田七人参加工末」は食後及び空腹時血糖値の両方を低下させる効果があることが示されました。
※3 糖と結合したヘモグロビンの割合のこと。1~2ヶ月程度の血糖状態を反映する。
以上、「田七人参加工末」は、従来の食品で知られる、食事と同時に摂取することで、糖の消化・吸収を抑えて血糖値の上昇を穏やかにする作用とは異なるメカニズムにより、血糖値の上昇を抑制する機能があると推察されます。
同社は今後、「田七人参加工末」が高血糖を抑制するメカニズムを分子レベルで解明するため、さらに研究をすすめてまいります。
【第65回 日本栄養・食料学会】発表概要
◎開催日 2011年5月13日(金)~15日(日)
◎発表日 5月15日(D会場、臨床栄養:糖尿病、内分泌疾患)
◎会 場 お茶の水女子大学(東京)
◎演 題 田七人参由来ダンマラン系トリテルペン含有エキスの高血糖モデル動物の糖代謝能力に
与える影響
○北村久美子1) 、上林博明1) 、高村裕介1) 、岩崎英明1) 、大寺基靖1) 、
眞鍋康子2)、藤井宣晴2)、伏木亨3)
1)ライオン㈱、2)首都大学東京 大学院人間健康科学研究科
3)京都大学大学院 農学研究科
田七人参由来ダンマラン系トリテルペン含有エキスのヒトの糖代謝能力に与える影響
○岩崎英明1)、野村充1)、北村久美子1) 、藤崎央子1)、高村裕介1)、一柳直希1) 、
大寺基靖1) 、藤林和俊2)、藤井宣晴3)、伏木亨4)
1)ライオン㈱、2)NTT東日本関東病院、3)首都大学東京 大学院人間健康科学研究科、
4)京都大学大学院 農学研究科
【The American Diabetes Association’s 71st Scientific Sessions(第71回アメリカ糖尿病学会)】
発表概要(予定)
◎開催日 2011年6月24日(金)~28日(火)
◎会 場 San Diego Conventional Center(アメリカ、カリフォルニア州)
◎演 題 Anti-diabetic effects of Panax notoginseng extract containing dammarane-type
triterpenes in KKAy mice
○岩崎英明1) 、北村久美子1) 、上林博明1) 、高村裕介1) 、野村充1) 、大寺基靖1) 、
松山和貴2)、眞鍋康子2)、藤井宣晴2)、伏木亨3)
1)ライオン㈱、2)首都大学東京 大学院人間健康科学研究科
3)京都大学大学院 農学研究科