月桂冠総合研究所は、麹菌が作るペプチドの一種「デフェリフェリクリシン」を、大量生産する技術の開発に世界で初めて成功しました。「デフェリフェリクリシン」には抗炎症・抗酸化、美白作用があります。
また、デフェリフェリクリシンと鉄との結合により生じる「フェリクリシン」には、貧血の改善・予防のほか、持久力向上などの機能性があることも確認しました。デフェリフェリクリシンの大量生産が可能になったことで、今後、医薬品や機能性食品、化粧品の素材など幅広い用途への活用が期待できます。これらの研究開発成果を、「日本農芸化学会2012年度大会」(京都市にて開催)で、3月23日(金)に発表。
麹菌が作るデフェリフェリクリシンは、鉄イオンを包み込むようにして結合するキレート作用によりフェリクリシンを生じ、清酒を赤橙色に着色させることがあります。このような着色を防止するために、清酒醸造においてはできるだけ鉄を持ち込まないことが原則とされてきました。
また、デフェリフェリクリシンをできるだけ生産しない麹菌の育種も進められてきました。このように、清酒業界ではデフェリフェリクリシンは不必要な物質ですが、鉄イオンとのみ選択的に結合する性質は、他分野において有用な用途となりえます。
しかし、麹菌は微量の鉄の存在でデフェリフェリクリシンを生産しないため、これまで通常の培養方法では大量生産が困難でした。そこで、デフェリフェリクリシンを多く生産し、同時に鉄への感受性が低い麹菌株を育種しました。培養方法には独自の技術を導入しました。具体的には、培養の際に撹拌を強めることによって増殖に必要な酸素の供給量を上げる、その一方で、撹拌することで菌糸がせん断されないように菌体を粒状に誘導するなどの工夫を施しました。その結果、従来よりもその生産性が1000倍に向上しました。実際に、発酵槽を使って培養したところ、40キログラムのデフェリフェリクリシンを製造できました。
デフェリフェリクリシンとフェリクリシンは、医薬品・食品・化粧品などに機能性を付与するための素材として応用が可能です。マウスを使った実験によると、「デフェリフェリクリシン」は抗炎症・抗酸化効果により、消化器疾患を改善する傾向が見られました。また、表皮への作用として、美白に関係する抗酸化活性とメラニン抑制効果を有することを確認しました。一方の「フェリクリシン」は、鉄の供給剤として貧血予防食品や貧血症の医薬品に利用される可能性が考えられます。
実験では、血液や筋肉に鉄を補給し、酸素の運搬や貯蔵の機能を高めて運動による疲労を軽減し、筋力の低下を防ぐ効果が見られました。 フェリクリシンは水溶性が高く、他の鉄補給剤との比較でも、色・香り・味において良好で、加熱にも強いなど優れた加工適性を持っています。麹菌は、清酒や酒粕として長年の食経験があることから安全性も高いと考えられています。デフェリフェリクリシンとフェリクリシンの応用分野を拡げるために、今回の学会発表をはじめさまざまな機会を通じて提案していきます。
【リリースURL】
http://www.gekkeikan.co.jp/company/news/201203_04.html
【月桂冠株式会社 公式ホームページ】
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【月桂冠総合研究所】
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