富士フイルム株式会社は、糖の吸収抑制効果があることで知られるサラシア属植物の、ヒトの免疫に対する作用に関して東京医科歯科大学(廣川 勝昱名誉教授)と共同で試験を行いました。その結果、サラシア属植物抽出エキスを摂取すると、
(1)腸内の善玉菌が増加し悪玉菌が減少すること、
(2)免疫力の指標とされ、ウイルスなどの異物に反応して体内でつくられるT細胞(*1)を増殖させる力が高まること、
(3)T細胞の中でも、新たな外敵から体を防御するナイーブ細胞(*1)数が非摂取時に比べて顕著に増加することがわかりました。
加齢に伴い減少することが知られているナイーブT細胞が体内で増加するという今回の結果から、サラシア属植物抽出エキス摂取による、ヒトの免疫力の向上を実証することができました。
同社は写真分野で蓄積してきた原材料の精製加工技術や独自のナノ技術、解析技術などをベースに、これまでに、さまざまな有用成分を高濃度に抽出・安定化することや吸収を高めることに成功してきました。また、有用成分の新たな作用メカニズムを解明してきました。
昨年11月には、サラシア属植物抽出エキスを摂取させたマウスを用いた試験で、インフルエンザ感染時の症状が軽減することを確認しています。今後もさらに、健康増進につながるサラシア属植物の新たな応用を検討するとともに、さらなる機能の解明を進めていきます。
なお、本研究内容を平成25年5月24日から開催される第67回日本栄養・食糧学会大会にて発表します。
*1 T細胞とナイーブT細胞
T細胞はリンパ球の一種で、ウイルスや病原菌を認識し、ほかの免疫細胞の活性化や異物排除を行います。T細胞は、体内にウイルスなどの異物が侵入すると、それに反応して体内でつくられます。T細胞にはいくつかの種類があり、それぞれ働きが異なります。T細胞の1つであるナイーブT細胞は、今まで罹患したことのないウイルスや病原菌が体内に入ったときの免疫機能活性化や異物排除に重要な役割を果たします。ナイーブT細胞は加齢に伴い体内の細胞数が減少することが知られています。なお、リンパ球は白血球の一種です。
■ サラシアとは
インドやスリランカなど南アジア地域に自生するデチンムル科のサラシア属植物の総称です。インドに古くから伝わる伝承医学(アーユルヴェーダ)においては初期の糖尿病治療に使用されてきました。最近では、サラシア属植物抽出エキスに含まれるサラシノール、コタラノールなどが、腸内でオリゴ糖の分解を促進する酵素(α-グルコシダーゼ)の活性を阻害することが確認されています。これにより、サラシア属植物抽出エキスを摂取することで小腸での糖の吸収が抑制され、血糖値上昇を抑える効果があることが明らかになっています。
■ 研究の背景
同社はこれまで、サラシア属植物抽出エキスが腸内細菌叢(*2)変化を通じて免疫調整に作用することを動物試験により明らかにしてきました。昨年11月には、サラシア属植物抽出エキスを投与することにより、インフルエンザ感染時の症状が軽減することを、マウスを用いた試験により実証しています。
また、ヒトにおいては、サラシア属植物抽出エキスを摂取することで、腸内のpH低下やアンモニア・腐敗産物減少が起こり、腸内環境が改善されることを証明してきました。さらに、腸内細菌叢改善効果が得られることを明らかにしました。今回サラシア属植物抽出エキスが、ヒトにおいても腸内細菌叢変化を通じて、免疫力向上作用を有しているのではないかと考え、試験を実施しました。
*2 健康な人の腸内には、100種を超える総数で100兆個の腸内細菌がバランスを保ってすみついています。特に小腸の終わり(回腸)から大腸にかけては、腸内細菌が種類ごとにまとまりを作ってびっしりと敷き詰められたような状態で生息しています。このような細菌の生態系を腸内細菌叢と呼びます。また、その状態は「花畑」にたとえられて、「腸内フローラ」とも呼ばれます。腸内細菌叢は食習慣・年齢・ストレスなどにより変化し、バランスが崩れると病気やアレルギーの原因になるとされています。
■ 実験方法
健常な30歳以上60歳未満の男性のうち、日ごろ疲労感があり疲れがとれにくいと感じている方10名を対象に、サラシア属植物抽出エキスを1日に240mg、4週間続けて摂取していただきました。摂取前と摂取を開始してから4週間後に被験者から採血・糞便の採取などを行い、腸内細菌叢をT-RFLP法(*3)で測定するとともに、フローサイトメトリー法(*4)でナイーブT細胞など血液中のリンパ球の計測を、細胞培養によってT細胞増殖能(*5)の測定をしました。
*3 Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism 法。遺伝子検査により細菌を判別する手法。腸内細菌叢のプロファイリングを高感度かつ簡便に行える。
*4 細胞懸濁液を細い流路に流すことにより、細胞をひとつずつ光学的に解析し、細胞の大きさ・蛍光などの情報を得る方法。
*5 外敵に対する防御能の指標のひとつであり、数値が大きいことは防御能が高いことを示します。具体的には、T細胞を含む組織液を培養し、抗原刺激を与え、それによって増殖するT細胞数を計測することで求められる数値です。このT細胞増殖能を用いてT細胞増殖係数を算出します。T細胞増殖能からは細胞ごとの増殖能、T細胞増殖係数からは個体(個人)ごとの細胞増殖能を知ることができます。
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◎リリースURL/PDF(富士フイルム株式会社 2013年2月5日発表)
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