東京工科大学(東京都八王子市片倉町、軽部征夫学長)応用生物学部の佐藤淳教授らの研究チームは、バイオベンチャー企業の株式会社NRLファーマ(神奈川県川崎市、星野達雄社長)との共同研究により、体内での安定性を向上させたヒトラクトフェリンFc融合タンパク質の特許(※1)を取得しました。今後、ラクトフェリンの高い安全性や生理活性などを活かした、副作用の少ないがん治療薬などへの応用が期待されます。
【背景】
乳などに含まれるラクトフェリン(以下、LF)は、抗腫瘍、抗炎症、抗酸化など様々な生理活性を示すタンパク質として知られています。すでにウシ由来のLFはサプリメント(健康食品)として使用されており、多くの健康増進作用が報告されています。本研究は、LFが持つさまざまな生理活性や食品として使用されている高い安全性に着目し、世界初の医薬品化を目指すものです。
一般にタンパク質医薬品は、体内での安定性が低く、十分な薬効が得られないという問題がありました。この問題を解決する手法として、タンパク質医薬品を抗体の一部であるIgG Fc(※2)と融合させる技術がすでに知られており、実際に臨床で使用されています。しかしこの技術では、免疫において外敵を排除する機能を持つ抗体の一部を使用することから、免疫細胞の活性化を介して副作用をもたらします。
【成果】
研究では、副作用をもたらす可能性のある免疫細胞の活性化を消失させる目的で、ヒト抗体の一部の配列(図1、ヒンジ領域)を欠失させたIgG Fcを作製。これを用いたヒトLFとの融合タンパク質の作製に成功しました。この融合タンパク質は、血中での安定性が大幅に向上(図2)し、副作用となる免疫細胞の活性化を示さないことが確認されました。
今回の特許は、この技術を使って作製したヒトラクトフェリンFc融合タンパク質が認められました。これにより、体内での安定性を向上させて増強した薬効と、副作用の少ない優れた安全性を持つ医薬品開発が期待されます。
左:IgG Fcとの融合タンパク質 右:Fcとの融合で血中半減期が延長
【社会的・学術的なポイント】
LFの種々の活性や高い安全性を活かした医薬品が期待されています。例えば、従来の抗がん剤はその副作用が知られているが、LFは抗腫瘍作用に加え、抗炎症や鎮痛作用を有することから、副作用となる各種炎症反応やガン疼痛を緩和できる抗がん剤として期待されます。さらに今回開発したヒトラクトフェリンFc融合タンパク質は、ヒト由来であるため抗原性が低く「注射剤」としても使用しやすく、サプリメントのような経口摂取と比較して高い効果が期待されます。今後は、動物実験等により更なる薬効や安全性を確認していくとともに、連携して開発を進める製薬企業の開拓などを進めていきます。
【用語解説】
(※1)ラクトフェリン融合タンパク質及びその製造方法(特許第5855289号、登録日:平成27年12月18日)
(※2)IgG Fc: IgGとは免疫で機能する分子であり、体内に侵入してきた外敵に結合して、排除する機能を持つ。Fcはその配列の一部。
■株式会社NRLファーマ
故・田村学造東京大学名誉教授と弟子の故・安藤邦雄氏が、東京大学時代に発見した医薬品シーズ、アスコクロリンを新規医薬品として実用化するために設立した、研究開発型のバイオベンチャー企業。
[会社概要]
名称:株式会社NRLファーマ(英文:NRL Pharma, Inc.)
設立:1998年4月23日
所在地:神奈川県川崎市高津区坂戸3丁目2番1号 かながわサイエンスパーク東棟203
代表者:代表取締役社長 星野達雄
ホームページURL:http://www.nrl-pharma.co.jp/
■東京工科大学応用生物学部 佐藤淳研究室(生物創薬)
遺伝子組換え、生化学、細胞培養技術を基盤とした生物創薬に関する研究を行っています。
工学的な発想で、創薬という「モノ作り」を推進している。
[主な研究テーマ]
1.自然免疫で機能する多機能性タンパク質であるラクトフェリンの機能解析
2.次世代ラクトフェリン製剤の医薬品としての開発
3.新規タンパク医薬品の安定化技術の開発
4.ファージディスプレイやアプタマー法を用いた新規ペプチド、核酸の創製
5.体外循環モジュールを用いる新しい治療法の開発
【詳細は下記URLをご参照下さい】
・東京工科大学 2016年2月16日発表
・東京工科大学公式サイト