花王株式会社ヘルスケア食品研究所は、ヒトの体質に関与する褐色脂肪組織がエネルギー代謝に及ぼす作用について、以下の2つの研究成果を得ました。
■研究成果-1■
花王株式会社ヘルスケア食品研究所、天使大学、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所、および斉藤昌之名誉教授(北海道大学)の共同研究グループは、日常生活下のエネルギー代謝における褐色脂肪組織*1 の役割(褐色脂肪組織の活性の高い人は食事誘導性熱産生(DIT*2 )が有意に大きいこと)を、メタボリックチャンバー(ヒトのエネルギー代謝を、日常生活に近い環境で長時間、正確に測定することができる部屋型の代謝測定装置)を用いて、明らかにしました。
■研究成果-2■
花王株式会社ヘルスケア食品研究所、天使大学、および斉藤昌之名誉教授(北海道大学)の共同研究グループは、褐色脂肪組織の活性が低下している人が、茶カテキンを5週間継続摂取すると、褐色脂肪組織の活性が高まるとともに、脂肪燃焼量が増加することを確認しました。
※この研究成果は、2014年8月26日発表の花王ニュースリリースにて学会発表内容をご紹介済みです。
今後も、メタボリックチャンバーを活用して、日常生活がヒトのエネルギー代謝に及ぼす影響について研究を深めていき、その研究成果が、健康寿命の延伸を阻害する要因の解決や健康維持・増進に向けた取り組みに貢献することをめざしていきます。
*1 褐色脂肪組織について
斉藤名誉教授らの研究により、成人においても褐色脂肪組織が存在し、体温制御に加え、肥満の予防に寄与していることが報告されています。最近では、褐色脂肪組織は現代人の太りやすさ/太りにくさの体質に関与する要因の一つとして考えられ、世界的に注目されています。
*2 DITについて(DIT:Diet Induced Thermogenesis、食事誘導性体熱産生)
DITとは、食事をした後に、安静にしていてもエネルギー消費量が増加する現象として知られています。食物の消化、吸収、貯蔵などに必要なエネルギーとされていますが、その詳細なメカニズムは明確にはなっていません。
1. 研究成果-1について
【研究概要】
画像診断(PET-CT検査)結果から褐色脂肪組織の活性の高い人と低い人を体格、年齢等に差が無いように集め、室温27°Cに設定されたメタボリックチャンバーに入室し、24時間のエネルギー代謝を測定しました。
<試験条件>
対象者:健康な男性21名(平均年齢26歳、平均BMI21.7)
試験方法:褐色脂肪組織の活性の高い13名と低い8名の比較観察研究
測定装置:メタボリックチャンバー(部屋型の代謝測定装置)
測定項目:エネルギー消費量 [食事誘導性熱産生(DIT)など]、呼吸商(脂肪と糖のどちらがエネルギーとして使用されているかを表す)、血液検査
試験条件:決まった食事の生活をする中で、室温27°Cに設定されたメタボリックチャンバーに入室し、24時間のエネルギー代謝を測定しました。
【研究成果】
・褐色脂肪組織活性の高い人の群は、1日の総エネルギー消費量には差がないにもかかわらず、DITが有意に大きいことが明らかになりました。
・褐色脂肪組織活性の高い人の群は、1日の呼吸商が低く、脂質をエネルギーとして優先的に使っていることが明らかになりました。
【まとめ】
本研究では褐色脂肪組織が、食事による体熱産生であるDITに寄与し、エネルギーとして脂質を優先的に用いていることを24時間にわたるエネルギー代謝測定から明らかにしました。これまでに議論されていた、褐色脂肪組織の日常生活における役割を明らかにしたと考えられます。
なお、本研究成果をまとめた論文は、英国 Nature Publishing Groupが発行する「International Journal of Obesity」2016年11月号に掲載されました。
Brown adipose tissue is involved in diet-induced thermogenesis and whole-body fat utilization in healthy humans, International Journal of Obesity, (2016) 40, 1655–1661[doi: 10.1038/ijo.2016.124]
http://www.nature.com/ijo/journal/v40/n11/full/ijo2016124a.html
2. 研究成果-2について
【研究概要】
A)画像診断(PET-CT検査)結果から褐色脂肪組織の活性の高い人と低い人を選び、茶カテキンを含有する飲料を摂取する群(茶カテキン群)と、含有しない飲料を摂取する群(対照群)に分けて、単回摂取した後のエネルギー代謝を調べました。
B)画像診断(PET-CT検査)結果から褐色脂肪組織の活性の低い人を選び、茶カテキンを含有する飲料を摂取する群(茶カテキン群)と、含有しない飲料を摂取する群(対照群)に分けて、5週間飲用を継続した前後において、褐色脂肪組織に関わるエネルギー代謝を調べました。
<試験条件>
対象者:
A)健康な成人男性15名(平均年齢23歳、平均BMI21.4)
B)褐色脂肪活性の低い健常な成人男性10名(平均年齢22歳、平均BMI20.0)
試験方法:ダブルブラインド・クロスオーバー試験(二重盲検交差比較試験)
測定装置:呼気分析法によるエネルギー代謝測定
測定項目:エネルギー消費量、脂質燃焼量
試験条件:
A)褐色脂肪組織の活性の高い成人男性9名と、低い成人男性6名を集め、茶カテキン群と対照群の2群に分け、飲料(茶カテキン群は、茶カテキン615㎎/日)を単回摂取してその後180分間のエネルギー消費量を測定しました。
B)褐色脂肪組織の活性の低い成人男性10名を集め、茶カテキン群と対照群の2群に分け、飲料(茶カテキン群は、茶カテキン1230㎎/日)を5週間継続して摂取しつづけてもらいました。褐色脂肪の活性強度は、寒冷誘導熱産生の測定結果により算出しました。具体的には、温度と湿度を一定に調整できる部屋を用いて、室温(本研究では27°Cに設定)、ならびに寒さを感じる環境下(本研究では19°Cに設定)において、呼気中の酸素濃度と二酸化炭素濃度を精度よく測定することで、エネルギー消費量と脂肪燃焼量を算出しました。
【研究成果】
・褐色脂肪組織活性の高い人の群において茶カテキン飲料の単回摂取はエネルギー消費量を有意に増加させました。
・褐色脂肪組織活性の低い人の群において5週間の茶カテキン飲料の継続的な摂取は、寒冷誘導性熱産生の増加より推定される褐色脂肪組織の活性を増加させました。また、その際に有意な脂肪燃焼量の増加が確認されました。
【まとめ】
一般にエネルギー消費量の低い人では、脂肪をためる傾向が比較的強いといわれています。今回、褐色脂肪組織の活性が低く、低エネルギー消費となっている成人において、茶カテキンを5週間継続摂取した場合の効果を検証したところ、褐色脂肪組織の活性が顕著に高まり、脂肪の燃焼量が有意に増加することを確認しました。これらの結果より、日常生活における茶カテキンの継続摂取が、太りやすい体質の人の肥満予防・改善の一助につながる可能性が期待されます。
なお、同研究成果をまとめた論文は、米国The American Society for Nutrition (ASN) が発行する「American Journal of Clinical Nutrition」に2017年3月8日に、オンラインで掲載されました。
また、本論文は医学・生物学分野の重要論文としてF1000Prime*3 に推薦されました。
Tea catechin and caffeine activate brown adipose tissue and increase cold-induced thermogenic capacity in humans, American Journal of Clinical Nutrition, (2017) 105, 873-881 [doi:10.3945/ajcn.116.144972]
*3 F1000Primeについて
F1000Primeは医学・生物学分野に特化し、世界4000人以上の研究者がメンバーとして論文の内容を評価し、雑誌のインパクトファクターに関係なく重要度の高い論文を選び、公表するシステムです。http://f1000.com/prime
3. 今後の取り組み
花王は、長年ヒトの代謝に関する研究を行ない、2004年には、民間企業で初めて、メタボリックチャンバーを導入し、食事・運動・睡眠などの日常生活がヒトのエネルギー代謝に及ぼす影響について本質を追究する研究を深く行なってきました。今後も、メタボリックチャンバーを活用して、外部研究機関と協働で、日常生活がヒトのエネルギー代謝に及ぼす影響について研究を深めていきます。その研究成果が、健康寿命の延伸を阻害する要因である肥満やメタボリックシンドロームなどの解決や健康維持・増進に向けた取り組みに貢献することをめざしていきます。
*本資料は、重工記者クラブに配信しています。
【詳細は下記URL(またはPDF)をご参照下さい】
・花王株式会社 2017年5月25日発表
・花王株式会社(企業サイト)