株式会社ニッピは、英国リバプール大学 酒井尚雄研究室との共同研究で、コラーゲンに特有なペプチド (プロリルヒドロキシプロリン、Pro-Hyp) が腱細胞の増殖、分化、運動性、およびコラーゲン合成を促進することを見出しました。
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■ 研究の背景
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タンパク質を経口摂取すると、体の中で短いペプチドやアミノ酸に分解されて腸管から吸収されます (※1)。コラーゲンについても同様ですが、コラーゲンは、アミノ酸組成に著しい偏りがあり、アミノ酸スコアは0で、栄養価の低いタンパク質と評価されてきました。一方でコラーゲンは、他のタンパク質にはほとんど含まれていないヒドロキシプロリン (Hyp) を非常に多く含みます。プロリン (Pro) とHypがつながったジペプチドPro-Hypは、コラーゲン摂取後の血中で顕著に増加します (※2)。近年の研究により、Pro-Hypに代表されるコラーゲン由来のペプチドが体内で様々な機能を果たしていると考えられています。
コラーゲンを食事に取り入れると、肌の調子が整う (※3)、骨や関節の状態が改善する (※4) などといった効果が報告されています。培養細胞を用いたコラーゲンペプチドの作用研究でも、細胞の増殖や分泌を促進する効果が認められています (※5)。ただ、皮膚や骨の細胞を対象とした研究が多く、コラーゲンペプチドが腱細胞に与える影響については不明でした。
腱細胞は、腱組織の形成と再生を担う線維芽細胞の一種です。骨と筋肉をつなぐ腱組織には、腱細胞が産生するコラーゲンが豊富に存在します。腱を損傷すると、治癒までに極めて長い時間を要することに加え、腱本来の力学的強度を保持できなくなってしまう点が、臨床的に重要な課題と
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■ 研究成果
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体内に吸収される代表的なコラーゲン由来ペプチドPro-Hypを培養マウス腱細胞に添加したところ、細胞増殖が促進し、Ⅰ型コラーゲンをはじめとする細胞外マトリックスタンパク質 (※6) の合成が活性化されました (図1)。
細胞周辺にはコラーゲン線維のネットワークが形成され、細胞の動きも活発になりました。また、Pro-Hypは腱前駆細胞の分化誘導も促しました。さらに、拮抗薬を用いた実験から、Pro-Hypの細胞内への取り込みには、これまでに想定されていなかったインテグリンなどを介した経路 (エンドサイトーシス) が大きく寄与する可能性が示唆されました (図2)。
コラーゲン特有のペプチドが腱細胞の機能を活性化すること、さらに、Pro-Hypペプチドの細胞内取り込みメカニズムの一端を明らかにした本研究は、コラーゲンペプチド摂取による様々な生理的作用の機序を解明する上で大きな一歩になったと考えます。
図1:左側のPro-Hypを添加した腱細胞 (細胞核を青く染色) ではコラーゲン線維 (赤) が多く蓄積しています。
図2:腱細胞に取り込まれるPro-Hypの量は、インテグリン拮抗薬を同時に添加することで大きく減少します。
(2群間比較検定:Student’s t-test, ***p < 0.001)
同研究は、学術雑誌に論文として発表しました。
The dipeptide prolyl-hydroxyproline promotes cellular homeostasis and lamellipodia-driven motility via active β1-integrin in adult tendon cells.
Ide K, Takahashi S, Sakai K, Taga Y, Ueno T, Dickens D, Jenkins R, Falciani F, Sasaki T, Ooi K, Kawashiri S, Mizuno K, Hattori S, Sakai T.J Biol Chem. 297, 100819 (2021) doi: 10.1016/j.jbc.2021.100819.
※1:同社 PR TIMES記事 (2021年7月26日付) 【健康食品としてのコラーゲン】参照
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000083625.html
※2:
Iwai et al. J Agric Food Chem. 53, 6531-6536, 2005
Shigemura et al. Food Chem. 129, 1019-1024, 2011
※3:
Proksch et al. Skin Pharmacol Physiol. 27, 47-55, 2014
Kuwaba et al. Jpn Pharmacol Ther. 42, 995-1004, 2014
※4:
König et al. Nutrients. 10, 97, 2018
Schauss et al. J Agric Food Chem. 60, 4096-4101, 2012
※5:Koyama. J Nutr Food Sci. 6, 504, 2016
※6:同社ウェブサイト「所員による研究レポート No.008コラーゲンを足場とした細胞培養」参照
https://www.nippi-inc.co.jp/biomatrix/tabid/172/Default.aspx?itemid=498
【詳細は下記URLをご参照ください】
・株式会社ニッピ/PRTIMES 2021年10月27日発表
・株式会社ニッピ 公式サイト