東邦大学薬学部薬品分析学教室の小野里 磨優講師、福島 健教授らの研究グループは、2021年に設計・開発したプレカラム型キラル誘導体化試薬CIMa-OSuを活用し、黒ニンニク製品にはD-アラニン、D-セリン、D-アスパラギン酸などのD-アミノ酸が含まれていることを初めて見出しました。今後、黒ニンニク製品の摂取による生体内D-アミノ酸濃度変動の解析やその食品栄養学研究への展開が期待されます。
この研究成果は、2023年2月13日に雑誌「Molecules」にて公開されました。
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■ 発表者名
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小野里 磨優(東邦大学薬学部薬品分析学教室 講師)
坂本 達弥(東邦大学薬学部薬品分析学教室 助教)
福島 健(東邦大学薬学部薬品分析学教室 教授)
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■ 発表のポイント
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◎黒ニンニクを原料とした製品中からD-アラニン、D-セリン、D-アスパラギン酸などの複数種のD-アミノ酸を検出した初めての報告です。
◎ニンニクの発酵過程におけるD-アミノ酸の生成が示唆されました。
◎黒ニンニク製品の摂取による生体内アミノ酸を含む生体分子変動やその食品栄養学的な研究などへの拡がりが期待されます。
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■ 発表概要
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生ニンニクを発酵させ、黒ニンニクを製造する過程で、ニンニク中の成分(脂質、アミノ酸、有機酸、含硫化合物、糖など)が大きく変化する報告がある一方で、黒ニンニクに含まれるD-アミノ酸の濃度については情報がありませんでした。そこで、研究グループは、教室オリジナルのD,L-アミノ酸分離定量法を用いて、市販の様々なニンニク製品に含まれるD-アミノ酸の含有量を調べました。
生ニンニク製品(すりおろした生ニンニク・フリーズドライのニンニク)から検出されたD-アミノ酸はD-アラニンのみでしたが、黒ニンニク製品からはD-アラニンに加えて、D-セリン、D-アスパラギン酸などの複数種のD-アミノ酸が検出されました。これらの結果から、ニンニクの発酵過程で、複数のD-アミノ酸が生成される可能性が示唆されました。
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■ 発表内容
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代表的な薬用食材の1つであるニンニクは、通常では生ニンニクが料理の香りづけに使用されることが多いですが、生ニンニクを高温(約60~90℃)多湿下で14~30日程度、蒸して、発酵させて作られた黒ニンニクは健康志向の食材として注目されています。黒ニンニクをペースト状やカプセル状に加工した製品は、栄養価の高いサプリメントとして広く販売されています。
更に、生ニンニクから黒ニンニクを作る発酵過程で、ニンニク成分(脂質、アミノ酸、有機酸、含硫化合物、糖など)が大きく変化することや、糖尿病、高血圧、動脈硬化、がん、神経変性疾患などの疾患に対する薬理効果が報告されています。一般的に、チーズ、味噌などの発酵食品にはD-アミノ酸が含まれていると報告されていますが、黒ニンニクに含まれるD-アミノ酸についてはこれまで情報がありませんでした。
そこで、研究グループが2021年に設計・開発したプレカラム型キラル誘導体化試薬CIMa-OSu(特願 2020-204964)(注 1)を使用して、ニンニク製品に含まれるD-アミノ酸を高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(LC-MS/MS)(注2)により測定しました。また、この方法では、従来の逆相分配型カラムではなく、ミックスモードカラム(注 3)を使用し、移動相pHを調整した結果、従来法よりもD,L-アミノ酸の分離を向上させることが出来ました(図1)。
続いて、構築した測定条件を用いて、市販のニンニク製品(すりおろした生ニンニク2種・フリーズドライのニンニク2種・黒ニンニクのペースト2種)に含まれるアミノ酸を分析したところ、今回調べた全てのニンニク製品の中では、L-アルギニンが最も高濃度でした。その他、すりおろした生ニンニクでは、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-リシンの濃度が高く、黒ニンニク製品ではL-アスパラギン酸、L-アラニン、L-フェニルアラニンの濃度が高いなど、黒ニンニクの特徴が分かりました(図2)。
D-アミノ酸については、発酵の有無に依らず全ての製品からD-アラニンが検出され、黒ニンニク製品からはD-セリンも検出されました(図3)。D-アラニンは、すりおろした生ニンニク・フリーズドライのニンニクの両方から検出され、生ニンニクそのものに存在している可能性があります。 一方、黒ニンニク製品には、12種類のD-アミノ酸が含まれていることが明らかになりました。すりおろした生ニンニク・フリーズドライのニンニクは、いずれも発酵させていないため、黒ニンニク製品に含まれるD-アミノ酸のほとんどは、約14~30日程度蒸すという発酵の過程で新しく生成された可能性があります。これらのD-アミノ酸の栄養効果は未だ不明ですが、その一部は哺乳類の体内で生理機能を発揮すると考えられていて、多くのD-アミノ酸を含む黒ニンニク製品の摂取が生体の正常な機能維持に役立つことも期待できます。
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■ 発表雑誌
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◎ 雑誌名
「Molecules」(2023年2月13日)
◎ 論文タイトル
Determination of D- and L-amino acids in garlic foodstuffs by liquid chromatography-tandem mass spectrometry
◎ 著者
Mayu Onozato, Haruna Nakanoue, Tatsuya Sakamoto, Maho Umino, Takeshi Fukushima
◎ DOI番号
10.3390/molecules28041773
◎ アブストラクトURL
https://www.mdpi.com/1420-3049/28/4/1773
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■ 用語解説
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(注1)プレカラム型キラル誘導体化試薬CIMa-OSu(特願 2020-204964)
アミノ酸が有するアミノ基を標識化し、D-アミノ酸とL-アミノ酸を分離定量可能とする、当教室で設計・開発した試薬。
(注2)高速液体クロマトグラフィータンデム型質量分析計(LC-MS/MS)
多成分からなる混合物を分離する高速液体クロマトグラフィー(LC)に、選択的なイオン検出が可能な質量分析装置(MS/MS)を接続した装置で、食品や生体試料の分離分析に汎用されている。
本研究においては、プレカラム型キラル誘導体化試薬CIMa-OSuで標識したアミノ酸をLCで光学異性体毎に分離し、MS/MSにおける開裂にて生じる特徴的なプロダクトイオンを検出することで、黒ニンニクに含まれるアミノ酸光学異性体の定量を可能としている。
(注3)ミックスモードカラム
物質の脂溶性の違いで分離する疎水性相互作用に加えて、イオン交換能の分離モードを兼ね備えたカラムで、高速液体クロマトグラフィーにより、カルボキシ基やアミノ基などのイオン性基を有する薬物や生体分子の分離に適している。本研究では、CIMa-OSuで誘導体化したD-およびL-アミノ酸がイオン性部位として1~2個のカルボキシ基を有するため、ミックスモードカラムによる分離に適していたと考えられる。
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■ 添付資料
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図1.本研究で新たに構築したLC-MS/MSによるアミノ酸のクロマトグラム
図2.ニンニク製品に含まれているL-アミノ酸濃度の一例
(左列: すりおろし生ニンニク中に多く含まれているアミノ酸、右列: 黒ニンニク製品中に多く含まれているアミノ酸)
図3.ニンニク製品に含まれているD-アミノ酸濃度の一例
(左列: D-アラニン、右列: D-セリン)
【詳細は下記URLをご参照ください】
・東邦大学 2023年6月7日発表
・東邦大学 公式