資生堂は、世界で初めて※1 ツバキ種子発酵抽出液が、皮ふの老化細胞を除去する機能をもつ免疫細胞CD4 CTL※2(メモリーT細胞※3)を誘引するCXCL9※4 の発現を高めることを発見しました。つまり、ツバキ種子発酵抽出液によって皮ふの免疫細胞による老化細胞除去効果が高まることが期待されます(図1)。
同社はこれまで、マサチューセッツ総合病院皮膚科学研究所(以下: CBRC)※5 との共同研究により、CD4 CTL (メモリーT細胞)が皮ふにおいて老化細胞を選択的に除去することや、表皮角化細胞から産出されるタンパク質CXCL9がCD4 CTL (メモリーT細胞)を老化細胞がある場所まで誘引する因子であることを見出してきました。
今後も、皮ふの免疫研究をさらに発展させ、免疫細胞をケアすることで、年齢にとらわれない肌本来の美しさへつながる価値創出を目指します。
※1 ツバキ種子発酵抽出液が肌の健やかさに重要な表皮因子(免疫細胞CD4 CTLを誘引する因子)CXCL9の発現を促進する技術が世界初
先行技術調査を用いた資生堂調べ(2024年3月)
※2 Cytotoxic CD4+ T細胞(CD4 CTL):T細胞の一種で、理想的な健康長寿のモデルとされる超長寿者に多い免疫細胞であることも知られている
※3 免疫細胞であるT細胞は病原体などの異物と遭遇し役割を果たすと、多くは死滅するが、体内に一部が残り、再感染や再発に備えて記憶し、同じ異物に対して迅速で強力な免疫応答をするのがメモリーT細胞である
※4 免疫細胞などの細胞の遊走を促進するタンパク質
※5 CBRC(Cutaneous Biology Research Center)。1989 年に資生堂のサポートにより、ハーバード医科大学とマサチューセッツ総合病院が設立した皮膚科学領域の先進的な研究開発をする総合研究所。資生堂からも研究員を派遣し、世界的な研究者とともに共同研究を行っている
図1 ツバキ種子発酵抽出液が表皮からのCXCL9の産生を促進することで、誘引されたCD4 CTL (メモリーT細胞)が老化細胞を除去することが期待される
《研究データ》
CD4 CTL (メモリーT細胞)を誘引する因子であるCXCL9のタンパク質の発現を評価した結果、ツバキ種子発酵抽出液が表皮角化細胞においてCXCL9の発現を促進していることを発見しました(図2)。
図2 ツバキ種子発酵抽出液により、CXCL9の発現量が増加
《皮ふの免疫細胞による老化細胞除去効果に寄与するツバキ種子発酵抽出液》
ツバキ種子発酵抽出液は、長崎県五島列島に古くから自生するヤブツバキ資源を有効活用するために、日本酒造老舗のヤヱガキ酒造株式会社と共同で開発しました。資生堂は長年、ツバキの種子、花、葉など様々な部位に価値を見出してきました。さらに、ツバキ油の製造過程で通常その多くは廃棄されるツバキの種子の搾りかすをアップサイクルし、日本の発酵技術を掛け合わせた抽出物が、CXCL9の発現を促進することを発見しました。日本酒の発酵で使われる数ある麹菌の中でも、タンパク質をアミノ酸に分解するプロテアーゼを多く含む黄麹(Aspergillus Oryzae)を選りすぐり、ツバキ種子の搾りかすに最適な発酵条件を検討した結果、美容成分のもとであるアミノ酸を格段に増やすことに成功しました。
R&D戦略について:
本研究はR&D戦略3本柱の1つである「Skin Beauty INNOVATION」のもと、血管やリンパ管、免疫、神経な ど、皮ふ内部の状態と肌との関連を明らかにする研究として進めました。
・2023 年統合レポート(ビューティーイノベーション)
https://corp.shiseido.com/report/jp/2023/message/cmio/?rt_pr=trr33
・キーワード
Skin Beauty INNOVATION、肌免疫
《参考:ニュースリリース・文献》
(1)皮ふの免疫細胞が老化細胞を除去する新たなメカニズムを明らかに(2024年)
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000003896&rt_pr=trr33
(2)細胞傷害性CD4+ T細胞がサイトメガロウイルス抗原を標的として老化細胞を除去する(2023年)
Cytotoxic CD4+ T cells eliminate senescent cells by targeting cytomegalovirus antigen、著者: Tatsuya Hasegawa, Tomonori Oka, Heehwa G. Son, Valeria S. Oliver-Garc?a, Marjan Azin, Thomas M.Eisenhaure, David J. Lieb, Nir Hacohen, and Shadmehr Demehri.
DOI: https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.02.033