いわゆる「胸やけ」や「T酸」を伴う胃食道逆流症(GERD)が増加傾向にある。背景として、食の欧米化やピロリ菌感染率低下による胃酸分泌量の増加、肥満や高齢化などが指摘されている。似た症状で重い病気が潜んでいるケースもあり、「たかが、胸やけ」と軽視していると手遅れになることもあるので注意が必要だ。
GERDは胃内容物の逆流によって不快な症状、あるいは合併症を起こした状態を指す。GERDのうち、食道粘膜障害がある状態のものが逆流性食道炎、自覚症状はあるもののただれや潰瘍がないものを非びらん性胃食道逆流症と分類する。GERDと診断された場合、胃酸分泌を抑えるプロトポンプ阻害薬(PPI)を第一選択薬として治療を行う。
すんなりとGERDと診断できれば、ことは簡単だが、吐き気、げっぷ、のどの違和感、食欲不振、長引くせき、胸痛などの非定型症状も見られる。例えば、胸痛を主訴にした患者の診断結果では、最も多いのは筋骨格系由来、次いでGERDを代表とする消化器系由来、というデータがある一方、心筋梗塞や大動脈解離などの重篤な疾患もみられ、診断には注意深さを要する。
のどの違和感を訴えた診断アプローチでは、頸部食道がん、中・下咽喉がん、長引くせきでは、肺がん、肺結核が疑われる可能性もある。実際、逆流性食道炎の患者を対象に行った症状のアンケート調査*では、胃のもたれ、胃酸の逆流感、胃の痛みなど胃に関連した症状が上位を占めるものの、のどのいがいが感、咳もそれぞれ2割から3割以上あり、さまざまな症状を有することが分かっている。
こうしたことを踏まえ、診断においてはまず重篤な症状を見逃さないことを第一ステップとし、次に頻度の高い疾患順に鑑別診断を行う。その上でGERDと判明した場合には、PPIを第一選択薬としての治療となる。
ただし、これまでのGERDの治療においては課題があった。PPI服用中においても患者の72.5%が週一回以上の症状発現を経験しているデータ**もあり、QOLに対し悪影響を与えていた。こうしたことから、酸分泌抑制効果にすぐれる新しいPPIが昨年に登場し、またGERDの診断をより的確に行うためのツールも工夫されてきている。診断のツールとしては、QUEST、Fスケール、GERD Q(写真)と呼ばれる問診表があり、医療の現場で活用されている。
*Yoshida S. et al: BMC Gastroenterol. 11,15,2011
**インターネットによるアンケート調査(2011年4月), Suzuki et al.UEGW2011, Oct.2011,Stockholm)