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高増殖性の海洋ラン藻でアスタキサンチンの効率的な生産技術を開発/神戸大学

神戸大学先端バイオ工学研究センターの蓮沼誠久教授の研究グループは、高い増殖能を有する海洋性ラン藻Synechococcus sp. PCC 7002に遺伝子導入を施し、光と水とCO2からアスタキサンチン 注1)を高生産する技術を開発しました。さらに同グループの独自技術である動的メタボロミクス技術 注2)を用いて高生産に至ったメカニズムを解析し、遺伝子導入によるβ-カロテン 注3)変換酵素の活性増強が上流の一次代謝 注4)を活性化させることを明らかにしました。

海洋性ラン藻によるアスタキサンチン生産の成功は世界で初めての例であり、従来法に匹敵する生産性を保ちながら、培養期間の短縮や雑菌汚染のリスク低減を実現しました。これは光とCO2からアスタキサンチンを高効率に製造するプロセスの構築に向けて重要な一歩となります。同研究成果は、2019年10月25日に国際科学誌「ACS Synthetic Biology」にオンライン掲載されました。 

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■ ポイント
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アスタキサンチンはその高い抗酸化作用に注目が集まり、ヘルスケア、化粧品産業などでの利用が拡大している色素物質。アスタキサンチンの製造は石油化学プロセスからバイオプロセスへの移行が求められているが、バイオプロセスとして有望視されているHeamatococcus緑藻を用いる手法には、培養の長期間化や雑菌汚染のリスクといった問題がある。

同研究では増殖能が高く、海水で培養可能なラン藻Synechococcus sp. PCC7002に着目し、CO2を唯一の炭素源として、細胞増殖時にストレスを付与せずにアスタキサンチンを生産させることに成功した。独自の代謝解析により、一次代謝が活性化されていることを明らかにした。

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■ 概要
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アスタキサンチンは優れた抗酸化特性により、水産養殖、医薬品、栄養補助食品、化粧品産業で広く使用されています。現在、商業用アスタキサンチンの大部分は石油化学前駆体から合成されていますが、化学合成の過程で生成する副生成物の存在が問題となり、天然アスタキサンチンの市場需要が増加しています。微細藻類の一種であるHaematococcus属緑藻はアスタキサンチンを高蓄積するため、天然アスタキサンチンの供給源として商用化されていますが、細胞の増殖速度が遅いため培養が長期間に渡ることや、ストレスを与えることにより雑菌汚染のリスクが高まることが問題視されていました。

同研究では、増殖速度が速く、雑菌汚染のリスクが低い海水環境下で生育が可能なラン藻Synechococcus sp. PCC 7002に、海洋細菌由来のβ-カロテン変換酵素遺伝子を導入・発現させることで、アスタキサンチンをCO2のみから生産することに成功しました。またこの手法ではストレスを細胞に付与せずに、短期間でHaematococcusに匹敵する高い生産性を実現しました。

高生産に至った理由を独自のメタボロミクス技術により調べたところ、一次代謝系に含まれるカルビン回路や非メバロン酸経路が活性化していることが示唆されました。これは光捕集等に関わるβ-カロテンがアスタキサンチンへ変換したため、枯渇したβ-カロテン等の色素を補うために一次代謝系が活性化したのではないかと考えられます。

同研究により、光合成による天然アスタキサンチンの高効率製造プロセスの構築に向けて重要な一歩を踏み出しました。今後は、代謝経路の最適化等により、さらなるアスタキサンチンの増産を目指すとともに、さまざまな有用物質の生産に展開します。

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 用語解説
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注1) アスタキサンチン:
3,3’位-および4,4′-位にそれぞれヒドロキシ基およびケトン基を持ち、カロテノイド化合物群の中で最も強力な抗酸化能を有する化合物。優れた抗酸化特性により、水産養殖、医薬品、栄養補助食品、化粧品産業で広く使用されている。

注2) 動的メタボローム解析:
生体細胞の中には1000種類以上の低分子化合物が含まれていると言われている。細胞に含まれる低分子化合物の種類 (および量) に関する情報をメタボロームといい、メタボロームを明らかにする手法をメタボローム解析という。安定同位体を用いて、代謝化合物のターンオーバーを観測するメタボローム解析手法を動的メタボローム解析という。

注3) β-カロテン:
緑黄色野菜などに豊富に存在する赤橙色の色素。アスタキサンチン生合成の前駆体化合物。β-カロテンヒドロキシラーゼ、β-カロテンケトラーゼの作用により、β-カロテンの3,3’位-および4,4′-位にそれぞれヒドロキシ基およびケトン基を導入することでアスタキサンチンが導入される。

注4) 一次代謝:
生物の維持、増殖、再生産に必須で生物界に普遍的に存在している糖、タンパク質、脂質、核酸などを生成する代謝。

【詳細は下記URLをご参照ください】
神戸大学 2019年11月6日発表
神戸大学先端バイオ工学研究センター ホームページ

2019年11月12日 09:59

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