信州大学医学部とサンスター株式会社は、共同研究により、長野県塩尻市の国保特定健診受診者を対象に任意の歯科的介入として歯科健診、歯科保健指導、口腔清掃補助用具セット(歯間ブラシ、洗口液、使い方説明書)の配布を実施し、口腔と全身の状態と保健行動の変化を分析しました。
その結果、特定健診と歯科的介入を受けた方は、歯間ブラシや洗口液の習慣化や運動・飲酒習慣等の保健行動が改善し、それらを通じて、口腔・全身状態にも良い影響を与えたことを明らかにしました。
本研究成果は、「特定健診時の歯科的介入による行動変容およびその副次的効果」という演題で、第33回日本産業衛生学会全国協議会(2023年10月27日(金)~10月29日(日)、於:山梨)にて発表しています。
この結果から、受診者が自身の健康状態を振り返る場となる特定健診時に、併せて歯科的介入を実施することは、受診者の口腔・全身の状態および保健行動の改善に寄与する観点から、重要であることが示されました(研究協力:塩尻市)。
<研究概要>
◆研究の背景・目的
メタボリックシンドロームおよび歯科疾患の予防・改善には、いずれも保健行動の変容が重要となります。
本研究では、メタボリックシンドロームに焦点を当てた特定健診時に歯科的介入を実施し、特定健診のみを受診した者と比較して、口腔・全身の保健行動が変容するかを調査することを目的としました。
さらに、これらの保健行動の変容に伴う副次的効果として、口腔・全身状態の経時変化を確認しました。
◆対象者と方法
長野県塩尻市の国保特定健診受診者のうち、研究参加に同意し、2018年および2021年の両年に特定健診と任意の歯科的介入を受けた131名(平均年齢60.9±8.5歳)、特定健診のみ受診した197名(平均年齢62.2±7.8歳)を対象としました。
歯科的介入として、特定健診受診時に歯科健診、歯科保健指導を実施し、さらに受診時および2~3ヶ月後郵送にて計2回、口腔清掃補助用具セット(歯間ブラシ、洗口液、使い方説明書)を配布しました。
その後、特定健診と任意の歯科的介入を受けた方の3年後の口腔に関する保健行動および状態の経時変化と、さらに特定健診のみを受けた方と比較した3年後の全身状態に関する保健行動および状態の経時変化について分析しました。
【研究結果のポイント】
1.口腔および全身状態の経時変化
特定健診と歯科的介入を受けた方の口腔状態について、歯肉出血ありの割合、未処置歯ありの割合は3年後に有意に減少しました。また、歯周ポケット深さ4mm以上ありの割合も減少しました(図1)。
さらに、全身状態について、特定健診と歯科的介入を受けた方は腹囲、脂質異常症、高血糖該当ありの割合が3年後に減少したのに対し、特定健診のみ受診した方は高血糖ありの割合のみが減少しました(図2)。
※高血圧、脂質異常、高血糖はそれぞれに該当する服薬者を除き、腹囲・メタボリックシンドロームは上記いずれかの服薬者を除く。
図1.特定健診と歯科的介入を受けた方の口腔状態の経時変化
図2.特定健診と歯科的介入を受けた方および特定健診のみ受けた方の全身状態の経時変化
2.口腔および全身の保健行動の経時変化
特定健診と歯科的介入を受けた方の口腔に関する保健行動については、歯間ブラシ、および洗口液の使用率がそれぞれ3年後に45.8%→56.5%、25.2%→44.3%へ有意に増加しました。
また、生活習慣については、特定健診と歯科的介入を受けた方は、特定健診のみ受診した方と比べて多くの項目で行動変容が見られ、特に「30分以上/日の運動をする」「飲酒を毎日または時々する」「朝食を3回/週以上抜く」「間食を毎日または時々する」割合が改善しました。
口腔状態と全身状態に良い影響を及ぼした背景には、このように特定健診と歯科的介入を受けた受診者の健康意識が高まり、健康行動に変化が生じたことがあると考えます。
<今後の展望>
「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針2023)」(厚生労働省)において、「生涯を通じた歯科健診(国民皆歯科健診)に向けた取組の推進」が記載されました。
本研究では、一般的に歯科受診率が低く、歯周病の罹患率が高まる年代である特定健診受診者を対象とし、特定健診時に歯科的介入を行うことで、口腔および全身状態に良い影響を及ぼしたことが分かりました。
それは、歯間ブラシや洗口液の習慣化や運動・飲酒習慣等の受診者の保健行動が変化したことによるものであると考えます。今後、生涯を通じた歯科健診の導入が、国民の口腔疾患の早期発見・予防をより一層促進すると想定されます。
あわせて一人ひとりが自身の健康行動を見直し、歯間ブラシや洗口液等でのセルフケアの習慣化によって口腔の健康を守り、ひいては全身の健康の維持増進に繋がることが期待されます。
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