ポーラ・オルビスグループの研究・開発・生産を担うポーラ化成工業株式会社は、タンパク質分解酵素複合体「プロテアソーム」の活性に着目し、以下のことを発見しました。
1.表皮細胞のプロテアソーム活性が低下すると皮膚の水分を守るタンパク質ZO-1の遺伝子発現量が減少する
2.皮下組織に存在する腱(けん)細胞のプロテアソーム活性が低下すると皮下組織を支えるタンパク質ミメカンの遺伝子発現量が減少する
3. 植物エキスで表皮細胞、真皮の線維芽細胞、腱細胞のプロテアソーム活性を高めることができる
真皮の線維芽細胞ではプロテアソーム活性の低下でコラーゲン産生が減少することが分かっており、同研究と総合すると、表皮、真皮、皮下組織それぞれのプロテアソーム活性が皮膚状態に寄与すると示唆されました。
細胞の中の不要なタンパク質を分解するプロテアソームに着目
プロテアソーム(補足資料1)は、細胞の中の不要なタンパク質を取り込み分解します。不要なタンパク質が分解されず溜まると、細胞増殖の停滞やタンパク質の産生が遅くなるなど、細胞にさまざまな悪影響を及ぼします。
また皮膚では、真皮線維芽細胞のプロテアソーム活性が低下すると、皮膚に弾力を与えるコラーゲンの産生が減少することが知られています。一方、表皮細胞や皮下組織の細胞でプロテアソーム活性が低下すると、皮膚の水分を守る力や皮下組織を支える力に影響を及ぼすのかは分かっていません。そこで、表皮細胞と皮下組織の細胞のプロテアソーム活性の低下による影響を調べました(図1)。
プロテアソーム活性低下で皮膚の水分を守る因子と皮下組織を支える因子が減少(図1中央)
表皮細胞のプロテアソーム活性が低下したときの影響を調べたところ、水分蒸散を防ぐ因子群のうち、タンパク質であるZO-1の遺伝子発現量が減少することが判明しました(補足資料2、図3)。その結果、表皮の大切な働きである水分蒸散を防ぐ力が弱まり、皮膚が乾燥しやすくなると考えられます。
皮下組織には、RC(retinacula cutis)と呼ばれる皮下組織を支える柱のような構造が存在し、皮膚の形状維持に重要な役割を果たしています。RCの構成成分は腱細胞によって作られます(※1)。腱細胞のプロテアソーム活性が低下すると、RCを構成するタンパク質のうちミメカンの遺伝子発現量が減少することが確認されました(補足資料2、図4)。これにより皮下組織を支える力が弱まり、たるみにつながる可能性があると考えられます。
※1 「タルミの原因“RC成分減少”を改善するエキスを発見」(2017年7月11日)
皮膚三層のプロテアソーム活性を高めるエキスを発見
皮膚三層を健やかに保つために、プロテアソーム活性を高めるエキスを探索しました。その結果、加水分解コメヌカエキスが表皮細胞と腱細胞のプロテアソーム活性を高め、加水分解イネ葉エキスが真皮細胞のプロテアソーム活性を高めることが分かりました(補足資料3)。
これらは皮膚全体を健やかに保つのに役立つ知見となると考えています。
【補足資料1】 プロテアソームとは
プロテアソームは、細胞の中に存在するタンパク質分解酵素複合体の一つです。不要なタンパク質にユビキチンという目印が付くと、プロテアソームがユビキチンを認識して内部に取り込み、不要なタンパク質を選択的に分解します(図2)。タンパク質が分解されて生じるアミノ酸は生体内で再利用されます(※2)。
※2 細胞内の不要なものを分解し再利用する機構として「オートファジー」の存在も知られている。オートファジーは原則として非選択的に起こり、タンパク質以外にミトコンドリアなどの細胞小器官も分解する。
【補足資料2】 プロテアソーム活性の低下による皮膚の細胞への影響
プロテアソーム活性が低下したときの影響を調べると、表皮細胞ではZO-1の遺伝子発現量が減少し(図3)、腱細胞ではミメカンの遺伝子発現量が減少しました(図4)。
プロテアソーム活性が低下すると、皮膚の乾燥やたるみにつながる可能性が示唆されました。
【補足資料3】 各細胞のプロテアソーム活性を高めるエキス
各細胞のプロテアソーム活性を向上させる植物エキスを探索したところ、表皮細胞と腱細胞でのプロテアソーム活性は加水分解コメヌカエキスにより促進することができ(図5左・右)、真皮線維芽細胞では加水分解イネ葉エキスにより促進することができる(図5中央)ことが分かりました。各細胞で不要なものを取り込む働きが促進されると、皮膚三層を良好に保つのに役立つと考えられます。