椛島健治 医学研究科准教授、大塚篤司 チューリッヒ大学病院皮膚科研究員(当時、京都大学次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点研究員)は、バリア機能で重要なフィラグリン蛋白の発現を促進しアトピー性皮膚炎の症状を改善させる化合物を発見しました。
本成果が、2013年9月18日(日本時間)の米国科学誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」誌に掲載されます。
◎概要
アトピー性皮膚炎ではバリア機能が低下することで異物に対する免疫応答が過剰に誘導され症状が悪化する可能性があります。このバリア機能を保つ上で重要な働きを担うフィラグリン蛋白の発現を促進し、アトピー性皮膚炎の症状を改善させる化合物を世界で初めて発見しました。
フィラグリン蛋白はプロフィラグリンとして表皮で産生され、これが分解することでフィラグリンモノマーとなり、皮膚のバリア機能を担います。またフィラグリンはさらに分解され、天然保湿因子として働きます。アトピー性皮膚炎の約20~30%の患者さんにこのフィラグリン遺伝子の異常がみられます。また、アトピー性皮膚炎の患者さんのほぼすべての方でフィラグリン蛋白が低下していることが知られています。このことからアトピー性皮膚炎におけるフィラグリンの役割は世界中で大きな注目を集めています。本研究グループは、このフィラグリンの発現をコントロールすることでアトピー性皮膚炎が改善できるかどうか検討しました。
◎研究手法と成果
まず培養表皮細胞を用いて1,000以上の市販の化合物ライブラリーから、フィラグリンの発現を亢進する物質をスクリーニングしました。この結果、JTC801という物質が培養表皮細胞のフィラグリン(プロフィラグリン)の発現を上昇させることがわかりました。次にヒトの皮膚に近い構造を持つ3次元表皮培養にこのJTC801を加えたところ、フィラグリン蛋白の発現が亢進し、フィラグリンモノマーの産生が上昇していることが明らかとなりました。また、片側のフィラグリン遺伝子に変異を持つマウスにJTC801を投与させたところ、フィラグリンの発現が上昇していることがわかりました。さらには、アトピー性皮膚炎の動物モデルを用いた実験では、JTC801を内服させたマウス群で皮膚のフィラグリン蛋白が発現亢進しており、このことでアトピー性皮膚炎様の症状が改善することがわかりました。
以上より、今回の研究を介して、フィラグリンの発現をあげることで、アトピー性皮膚炎を改善させうることを世界で初めて証明しました。また動物モデルにおいて、内服で皮膚のバリア機能を高めアトピー性皮膚炎の症状を改善させうるシード化合物を発見しました。今回の研究成果に基づき、今後フィラグリンをターゲットとした新たな治療戦略、特に新規内服治療剤の開発が期待されます。
※詳細は下記URLをご参照ください
◎京都大学 2013年9月17日発表
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2013/130918_2.htm