株式会社ファンケルは 2013 年から、九州大学大学院農学研究院の安尾しのぶ准教授、九州大学大学院芸術工学研究院の樋口重和教授と「体内時計」に関する共同研究を進めています。
その研究の中で、アミノ酸の 1 種である「L-セリン」(1)を摂取すると、現代社会において乱れがちな体内時計(2)の光による調整が容易にできることを確認しました。
この研究成果は、体内時計の乱れや時差ぼけの改善も期待できるものです。なお、本研究成果は論文として、「Journal of Nutrition,2017; 147: 1-9」に掲載されております。
■研究結果■
同研究は、20 種類のアミノ酸を決まった時間に投与して実施しました。その結果、L-セリンに体内時計の光による調整力を強める機能があることを発見しました(図1)。
また、昼夜をコントロールして時差ぼけを誘導し、L-セリンを決まった時間に投与すると、新しい昼夜リズムに早く同調することも確認できました。これはL-セリンが時差ぼけなどで乱れた体内時計の調整力を強めることを示しています。
次に、男子学生 15 人を対象に光による体内時計の調整力の試験を行いました。夜の就寝前にL-セリンを 3g摂取した状態と摂取していない状態で、それぞれ朝の起床時に光を浴び、体内時計の指標となるメラトニン(3)分泌を測定しました。
その結果、L-セリンを摂取した方が、メラトニンの分泌開始時刻が早められ、体内時計の調整力を強めていることが分かりました(図 2)。また、L-セリンを摂取すると翌日の日中に眠くなりにくくなる傾向も認められました。本研究結果から、L-セリンを摂取することで、栄養学的に体内時計の乱れや時差ぼけの改善が期待できることが分かりました。
またこの結果は、週末に 3 時間以上朝寝坊することで生じる「社会的時差ぼけ」の改善、シフトワーカー(交代勤務者)の健康管理、生活リズムの乱れによる不眠の改善、夜更かし時の体内時計調整など、幅広い応用が期待できるものです。
■研究背景■
人の身体には約 24 時間で刻まれる体内時計が備わっています。しかし現代社会では、不規則な生活や海外旅行による時差ぼけ、また夜間にパソコンやスマートフォンの光を見続ける生活など体内時計が乱れがちです。体内時計が乱れると、がんや糖尿病、高血圧、肥満などのリスクが高まります。人の体内時計はもともと 24 時間より少し長いため、朝に太陽などの光を浴びることで毎日体内時計の調整を行っていますが、頻繁に生活リズムが狂うと調整が追いつきません。そこで、今回体内時計の調節力を強める成分の探索と、その効果を検証する研究を行いました。
■用語説明■
(1)L-セリン :牛乳や肉、大豆などの高タンパク質の食品に含まれるアミノ酸の 1 種。睡眠の質を高める効果が知られている。
(2)体内時計:睡眠、覚醒状態、ホルモン分泌、血圧などを調整する身体に備わる時計。昼夜リズムに合うように制御され、約 24 時間周期で刻まれている。
(3)メラトニン:睡眠と関連したホルモンで、睡眠の 2~3 時間前に分泌が始まる。
■共同研究者コメント■
九州大学大学院農学研究院
安尾しのぶ准教授
体内時計は今年のノーベル医学生理学賞の受賞対象となったように、世界でその重要性が認識されています。体内時計の基礎研究は飛躍的に進歩しており、今後はそれを実社会に役立てることが重要です。今回の研究では、産学連携研究により、マウスの基礎研究からヒトでの臨床応用へつなげたことに大きな意義があると思います。今後も、食品栄養で体内時計を健康に保つ方法を見出していきたいです。
九州大学大学院芸術工学研究院
樋口重和教授
現代は、どの家庭も光の消えない不夜城になり得る時代です。私たちは、パソコンやスマホなど体内時計が乱れやすい誘惑の中で生活しています。今回の実験では、ヒトの実験室実験で、L-セリンに体内時計の乱れを防ぐ効果があることを明らかにできました。次のステップとして、日常の生活の中でのL-セリンの効果を検証するための研究を進めています
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・株式会社ファンケル 2017年11月6日【PDF】発表
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