「『東日本大震災』以降、便秘の症状を訴える方が増加傾向にあります。当院でも、高齢者やもともと便秘傾向の患者さんが、より症状を助長されている印象を受けています。」と懸念するのは、内科・胃腸科の専門医で、腸の健康に詳しい松生クリニック院長の松生恒夫(まついけ つねお) 先生です。
松生先生は「震災直後から続いている余震、原子力発電所の事故処理の見通しが立っていない状況下、被災地や関東首都圏の多くの人が不安を抱え、大きなストレスを感じています。特に被災地や原子力発電所周辺地域で、体育館などの避難所生活が続いている方は、ストレスに加え、支給される食事の偏りや運動不足によって腸が働きづらい環境になっています。」
そこで、松生先生に震災ストレスによる便秘のメカニズムとその対策についてお話を伺いました。
【腸は「第2の脳」!】
ストレスの影響を最も受けやすい臓器のひとつ
排便に関わる最も重要な働きは、胃から直腸までスムーズに便を移動させる、大腸の「蠕動運動(ぜんどううんどう)」です。「蠕動運動」は、便意を起こしたり、食べ物の分解や消化に欠かせない酵素やホルモンの分泌を促す働きも持っています。そして、この「蠕動運動」に深く関わるのが約一億個の神経細胞です。実は腸は、人間の体の中で脳に次いで神経細胞の数が多く、「第2の脳」と言われています。
そのため、腸の働きは精神的な健康状態が密接に影響すると考えられています。“震災ストレス”で交感神経が優位になると、腸の働きが悪くなると考えられます。排便の調子が悪くなると、お腹にガスが貯まり胃が圧迫されます。その結果、食欲が低下し、排便を促す食物繊維の摂取量も減り、ますます排便が困難になります。このように、精神的環境と身体的環境の悪循環が、「震災便秘」につながるのです。
【「震災便秘」は、4つの便秘タイプの複合型!】
便秘は部位ごとの問題やストレスによるものなど様々なタイプがありますが、
大きく以下の4つに分けられます。
■腹部膨満型:おなかに便やガスがたまって苦しくなるタイプ。
■硬便型:便がいつもガチガチに硬いタイプ。
■排便困難型:排便するのが難しいタイプ。(高齢者に多い。)
■便意消失型:便意(直腸反射)がまったく消失してしまっているタイプ。
被災地で生活される方で、共通するタイプは「硬便型」だと考えられます。被災地では、水の供給量の制限や避難所のトイレの環境などから、水を飲む量を少なくしている方が多いそうです。水分摂取量が少ないと腸の中で便が硬くなり、便秘につながります。さらに、高齢者の場合は、「排便困難型」も比較的多いと考えられます。「排便困難型」は、薬を処方するケースもありますが、被災地の医療環境だと、便秘で受診するのを遠慮する人もいるだろうと考えられます。なるべく医療機関の受診をおすすめしますが、それが難しい場合は、食事療法や運動療法による対策をおすすめします。
また、関東首都圏の「震災便秘」は、「腹部膨満型」×「排便困難型」の複合型が多いと考えられます。このタイプは「ストレス→便秘→お腹にガスが貯まる→食欲低下→排便困難」という負のスパイラルに陥ります。排便をスムーズにする食事と運動療法をおすすめします。
【「震災便秘」対策には、食物繊維とオレイン酸】
「震災便秘」は複数のタイプが重なり合っているものがほとんどですが、有効な対策として共通するのは、排便をスムーズにする“食事療法”です。
おすすめする食事療法には二つあり、一つ目は1日スプーン1杯のオリーブオイルです。オリーブオイルに含まれるオレイン酸に、腸で滞留している便をやわらかくする機能があります。
そしてもう一つが、食物繊維です。食物繊維は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維に分けられ、それらをバランス良く摂取することが大切です。食物繊維が多い食品としては、一般的に玄米や豆類などが知られますが、これらは不溶性食物繊維を多く含みますが、水溶性食物繊維はあまり含まれていません。不溶性食物繊維の摂取バランスが多くなると、水分を吸収して便が硬くなります。一方、水溶性食物繊維は、水分を抱き込んでゲル状(ゼリー状)になるため、便が腸内をスムーズに移動するのを助けます。不溶性食物繊維を含む食品は日常食べるもので多くありますが、水溶性食物繊維も効率よく摂取できる日常食品はあまり多くないため、意識的に摂取することが重要と言えます。
【水溶性食物繊維が多く、不溶性食物繊維とのバランスも抜群!「震災便秘」解消の強い味方、“プルーン”】
果物の食物繊維を効率よく摂取する食品として、ドライフルーツは有効と言えます。
その中でも「プルーン」(乾燥プラム)は、食物繊維が大変多く含まれます。特に水溶性食物繊維が非常に多く含まれ、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の比率も1:1とバランスが良いため、便秘解消食としては最適と言えます。朝食や夕食のときにプルーンを数個ずつ食べると、「震災便秘」の解消に役立つと考えられます。
また、プルーンは食物繊維以外の栄養価も非常に高いため、被災地で生活される方や、震災後の食生活が少し乱れてしまった関東首都圏の方の栄養不足を補う効果も期待できるでしょう。
<松生恒夫 先生 プロフィール>
1955年 東京生まれ、1980年 東京慈恵会医科大学卒業
医学博士、日本内科学会認定医、日本消化器内視鏡学会指導医・専門医、日本消化器学会認定専門医、日本東洋医学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医、日本精神分析学会・正会員、日本消化器内視鏡学会関東地方会評議員
【栄養価が非常に高く、多くの健康効果も確認!スーパーフルーツ、“カリフォルニアプルーン”とは!?】
プルーンとは、乾燥したプラムのことを言います。これまでの研究で、プルーンにはLDLコレステロースの低下や骨代謝の促進、また抗酸化スコアも高く、減塩に役立つカリウム・マグネシウムなど多くの栄養を含み、しかも低GI(29)食品でもあるため、適正な血糖値の維持を助けるなど、多くの健康効果が確認されています。
2008年10月に発表された研究※1によると、プルーンの摂取がアテローム性動脈硬化症(動脈硬化)の発症を遅らせることが判明しました。これは、果物による初の研究で、プルーンが動脈硬化の予防・軽減に有効であることがわかったのです。
また、2011年3月に発表された研究※2によると、プルーンは便秘治療においてサイリウム(オオバコ)より有効であることも判明しています。プルーンは天然由来の便利な便秘対策として、再注目されています。
プルーンは、手軽でおいしく、忙しいライフスタイルにも取り入れやすいことから、アメリカでは“スーパーフルーツ”とも呼ばれています。
※1 The British Journal of Nutrition電子版にて発表
※2Alimentary Pharmacology and Therapeutics (食事薬理学・治療学)誌にて発表
【カリフォルニア プルーン協会】
カリフォルニア プルーン協会は、カリフォルニア州食品農業局長官の管轄下にあり、900のプルーン生産者と21のプルーン加工業者が加盟しています。カリフォルニアの豊かな歴史の一部をなすものとして愛されてきたプルーンは、現在でもなおカリフォルニアの経済的繁栄において重要な役割を担っています。米国のプルーン供給量の99%、世界全体の50%をカリフォルニア産が占めています。プルーンは、忙しい現代人のライフスタイルにぴったりの手軽でヘルシーなスナックです。詳しくは、www.prune.jp をご覧ください。